水が漏らないってのは絶対条件だよなあ

「住居の問題も深いなあ。……あと、縄文土器の問題も面白おもしれぇぞ」

 焼き飯を頬張りつつ、敬太郎君が言う。


「あっ。私、小学校の頃に縄文土器を作ったことがあるよ~」

 と、智ちゃん。ちょっと得意そうに言う。

「ほう。どこで?」

「あれは西都原考古博物館主催だったのかな? 『夏休み子供教室』的なイベントで、土器を作ったよ」


「あぁ……。そういうの、よくやってるよね。粘土とか、道具なんかはどうしたの?」

 と、敬太郎君。

「それは全部、主催者側が用意してくれてたよ。私達小学生が、それをフツーの粘土細工みたいに捏ねて、縄紐で模様をつけるだけ。ちゃんと窯もあって、係の人がそこで焼いてくれるの」


「なるほどなあ。小学生でも作れますよ~。縄文人ってこんな感じで、素朴な道具を作って生活していたんですよ~……と」

「うんうん」

「どうやら、そういうイメージは大間違いらしいよ。縄文土器って見た目こそショボいけど、結構高度なテクが必要で、簡単には作れないらしいね」

 敬太郎君はあたし達の顔を見回しつつ、そう言った。


「そうなんだ……」

「出来上がった時に、水を入れてみた?」

「いや、やってないよ」

「ほらね。水を入れてみたら、そのスゴさが判るらしいよ。つまり、フツーにそこらで取って来た粘土をちょちょっと捏ねて、焼いただけでは、水がダダ漏れする」


「マジ!?」

「うん。現代の食器は、釉薬うわぐすりをかけてから焼くよね。だから水が漏れない。土鍋だって、表面をコーティングしてある。しかし素焼きだと、そうはいかんらしいよ」

「そっか。水が漏るような土器は、まあ穀物の貯蔵なんかには使えても、煮炊きには全く使えないよね……」

「そういうこと」


 なるほど。――

 確かに、水が漏らないってのは絶対条件だよなあ。


「ある人が、縄文土器を作ってみようと頑張ったんだよ。ところがどうしても水が漏る。一〇年以上かけて何千個も作ってみて、やっとノウハウを掴んだ……っちゅう話やね。そんだけ難しいらしい」

「へぇ~~~~」


「粘土は、そこらでテキトーに調達してきてもダメ。特定の粘土じゃないと作れんらしいよ。しかし現代の研究でも、土器製造に適した粘土とそうでない粘土の差が科学的に判明していない。おそらく縄文人は、あちこち歩き回っていろんな場所の粘土を試し、苦労して『水が漏れない土器を作れる粘土』を探したっちゃろうね」

「そうなんだ……」


「いざ粘土が見つかっても、ささっと手早く作らんと簡単にひび割れする。そしてその後一ヶ月、乾燥させる」

「一ヶ月も!?」

「それも季節によって、乾燥期間の調節をせんといかん。それから焼くっちゃけど、温度管理だとか、すっげー沢山のノウハウが必要らしい。焼き始める前に予熱なんかも要るらしいよ。つまり『熟練した職人にしか作れんわ』っちゅう結論やっちゃげな」

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