廃墟の秋

春風月葉

廃墟の秋

 カサカサと歩みを進める度に死者の声が聞こえる。

 紅く染まった枯葉の大地がこの街の死んでしまったことを告げる。

 焦げたような色の木々が好き勝手に並ぶこの通りは、おそらくこの街が生きていた頃には人々の声が飛び交う鮮やかな風景を見せてくれたのだろう。

 廃墟と化したこの街にも季節だけは巡ってくる。

 カサ…、歩みを止めて目を向けた先には古びた酒屋があった。

 木の突き抜けた天井から射す小さな日の光を頼りに瓶を漁り、一本の葡萄酒に辿り着く。

 手をかけるとポンと小気味よい音がして、芳しい葡萄の深い香りが狭い店内を漂い、コロリとコルクの栓が転がった。

 久しく口にしていなかった酒を夢中で喉の奥に流し込む。

 はぁ…と息を吐き、空になった瓶を眺める。

 もう葡萄の実る季節も終わる頃かと外に見える自然に淘汰された憐れな人類の住処、その残りカスを眺める。

 季節だけが昔と同じように流れる。

 私はまだ、この世界で生き長らえている。

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廃墟の秋 春風月葉 @HarukazeTsukiha

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