第2話 ステータス


「……これを、フォールがやったって言うの?」


「いやまあ、そうだ。」


 ラカが疑いの眼差しを向ける。そりゃそうか、そう簡単に信じて貰えるわけはないか。だが、このまま最初の村でいつ終わるかもわからない足止めにあっている場合ではない。こうしている間にも、虎視眈々と最強プレイヤーの座を狙う他のプレイヤーが……。

 あれ? そういえばこの世界って他のプレイヤーいるのか?いないのであれば、そう焦る必要もないが。

 俺はメニューからランキングを開く。

 ランキング。俺は最強プレイヤーと名乗っているが、その定義がこのランキングというもので一位にいることだ。このランキングというのは、装備しているアイテム、持っているスキル、そしてステータス、基本的にこの三つの強さを数値化し、もっとも高い数値のプレイヤーから順にランクインしていくというものだ。


『あなたの順位 総合第1位』


 よかった、装備が初期装備に戻っていたから或いは、と思ったが一位の座にまだ座っている。だが、二位との差は間違いなく近づいていた。

 そして、それは同時に俺が今プレイしているゲームに他のプレイヤーもいることを表している。自分と同様にこちらの世界に来ているのか、画面の外にいるのか。どちらにしろ、俺は順位争いの渦中にいる。

 やはり、一位を死守するためには足止めされている時間などない。


「そんな初心者装備を着ている人に、地面を抉ったのは自分、なんて言われても信じられるわけないよ。」


「いや、確かに信じてもらえないのは無理もないけど、本当なんだよ、マジで!」


 なんとか自分が強いことを証明して、チュートリアルを早く脱しなければ。俺はどうすればいいのか考えた。


「じゃあ、魔法見せてよ、魔法。地面をこんなに抉るなんてこと魔法以外じゃできないでしょ。」


「ま、魔法は……使えない。」


 ん? 待てよ、俺がやったことを証明するなんてもう一回やって見せればいいだけだ。俺は何を深く考えていたのだろうか。


「ほらやっぱり! 魔法も使えないのにこんなことできるわけないでしょ!」


「いや、できる。魔法なんて使えなくてもな。まぁ見てろ。」


 しかし、実演してまた走るとこの辺の人を吹っ飛ばしかねないな。俺の今のパンチ力なら、衝撃波くらいは出るかな。なるべく周りの人を巻き込まないように。

 とりあえず、俺は誰もいない方向に向かって空気にパンチを繰り出した。パンチというより、ちょっと力を込めて手を突き出しただけだが。


 その瞬間、周囲に途轍もない暴風が吹き荒れた。大量の土煙が舞い、周囲の視界を遮る。

 な、なんだ。一体何が起こったんだ。俺は全く理解できなかった。

 土煙が晴れ、徐々に周りの景色が見え始める。


「お、おい!あれを見ろ!」


 周囲にいた一人の村人が、ちょうど俺の向いている方向を指差して叫んだ。

 さっきの跡とは別に、草原にもう一つ地面が抉れた跡ができている。その跡は俺の足元から始まり、地平線へと続いていた。俺が腕を突き出した方向に。


 まさか、ここまで物理攻撃力が上がっていたとは。上級プレイヤーの攻撃魔法なんて比べ物にもならないじゃないか。


「……これ、フォールがやったの?」


「……ここまでやるつもりはなかったんだよ、本当に。」


 俺は思い出した。毎日毎日ただ作業のように繰り返していたダークドラゴン狩り、そのダークドラゴンの体を包む鱗は、町を一つ簡単に破壊するような魔法でさえ傷一つ付けることができないほど強固であることを。


〜〜〜〜〜


「あなた一体何者なの!?」


 村に帰ると、ラカは開口一番に聞いてきた。

 なんと答えるべきなのだろう。最強プレイヤーです、なんて言ってもこんな初期装備の身なりじゃ格好つかないしなぁ。というか、そもそも最強プレイヤーだって自分で名乗ること自体があんまり格好良くないよなぁ。


「通りすがりの初心者冒険者だよ。」


 やっぱりテンプレートの通りすがりに落ち着いた。正義の味方が正体を名乗らない気持ちがなんとなくわかる。格好悪いもんね、最強とか正義とか自分で言っちゃうと。


「……通りすがりの初心者冒険者があんなこと普通できないと思うけど。そもそも、どれだけMP消費すればあんな魔法が使えるの。」


 魔法、か。あれが魔法だと思っているあたり、やはりこの世界は魔法こそが至高であり最強なのだろう。現実世界のリミットブレイク・サーガと何一つ変わらない、魔法以外のステータスなど俺以外の人々からすればただのおまけなのだ。


「MPなんて消費してないよ、ただの物理攻撃だ。」


「……そんなこと言って、信じられるわけないよ。ってさっきも私同じこと言った気がする。まさかとは思うけど、これも本当なの?」


「ああ、そもそも俺MPの値ゼロだから魔法自体使えないしな。」


 まあいい。信じられようが信じられまいが、俺がただの初心者冒険者じゃないことは十分に理解してくれたことだろう。早いところチュートリアル終わらせないとな。


「じゃあ、ステータス見せて!」


「見せるって、一体どうやるんだよ。」


「どうやるもこうやるも無いでしょ?見せるのくらい。」


 なんだよ、チュートリアルキャラのくせに肝心なところはノーヒントかよ。見せてって言われたって、こちとらさっきこの世界に来たばっかりで右も左もわからないってのに。

 とりあえず、見せたいと心の中で思う。


「あ! これがフォールのステータス画面ね!」


 え、見えたの? 俺心の中で思っただけなんだけど。

 どうやら、メニューなどは意思によって操作できるようだ。それに付随してステータス画面の他者への開示なども意思で操作できるのか。

 なんか近未来感あるなこれ、近未来というかゲームの中なんだけど。


「……何このステータス……こんなの今まで見たことない……あなたやっぱり何者?」


 俺のステータス。MP、魔法攻撃力、魔法防御力、以上三つに0が一つ表示されている。つまり、ゼロ。

 対して、HP、スタミナ、物理攻撃力、物理防御力、スピード、以上五つに9が八つ並んでいる。つまり、だいたい一億くらいだ。

 ただ、このゲームのステータス画面は表示できる数字が一つのステータスバーにつき八つまでなので、本当は一億など優に超えているのだが。

 これはどう考えても運営の怠慢だ。ステータスが1億を超える人間が現れる可能性を考えておらず、剰え現れたというのに対応しない。

 まぁ、ステータスが一億超えてる変態プレイヤーなんて俺くらいのものだから仕方ないといえば仕方ないが。


「というか、どんだけレベルアップすればこんなステータスになるの……。」


 ラカは恐怖にも似た表情でこちらを見つめてくる。

 案外気分の悪いものではない。俺が費やしてきた時間と金と労力を考えれば、畏怖の念を向けられて然るべきだと思う。

 クソ、新入社員歓迎会で特技聞かれたからゲームって答えたら笑いやがった上司マジで許さん。


「なあ、だからチュートリアルはもう終わりでいいだろ?一応人工知能なんだから融通きくよな?」


 というか、マップ自体ぶっちぎることもできるのではなかろうか。でも、魔王はちゃんとストーリーに沿ってやらないと復活しないだろうし、ダークドラゴンはストーリークリア後にエンカウントするしなぁ。


「お願いがあるの! 迷宮の森に案内した女の子が、入ったきりもう何日も帰ってないの! でも、私じゃあの森に入っても死ぬだけ……。だからお願い! ついてきて欲しいの!」


 ラカは、涙目になって突然頼んできた。この唐突な発言と心境の変化は人工知能だからだろうか。

 だが、俺はそんなことどうでもよかった。問題が発生したからだ。


 何だそのイベント、俺知らないぞ?

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異世界転移したら、魔法以外のステータスが無限にあるんだが 形利 秋 @pokepoke1996

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