傍観者
Erin
傍観者
「あなた、うちの息子と同級生でしたよね?」
涼しげな風が吹くいつもの下校中、私は出会った。
新聞紙を片手に私を呼び止めた中年の女性。
この顔、覚えてる。
小学生の頃、いじめられていた、長谷川君の母だ。
私は頷き、にこっと笑って見せる。
「受験生だよね? うちの息子も今頑張って勉強してるの。あなたも頑張ってね」
灰かぶり姫のような服に彼らの生活が垣間見えた。
ひきつった笑顔で私は静かに「はい」と言ってその場を立ち去った。
長谷川君......彼は今どうしているのだろう。どこの高校へ入学したのだろう。
小学生時代、一軍のような児童が集まる中、一人だけ『変わった』男の子がいた。
靴が女物だから。彼の筆箱からGからはじまるアイツが出たから。顔が生理的に受け付けないから。
さらに、女子トイレで『変わった』女子とキスをしたなんていうデタラメな噂も流れた。
いじめられた女子が転校するなか、長谷川君だけは西
最後までいた。卒業した。
私は彼とあまり話したことはない。いじめを止ようとしたこともない。あの頃、罪悪感は無かったとしても、私は完璧な『傍観者』だった。
だから、卒業式の日、彼の母に「一緒に写真を撮りませんか」と言われたとき、断ってしまった。
卒業後はエスカレーター式のように地元の中学へ入学した同級生たち。
中高一貫へ行った私は、仲のよかった同級生っから情報をもらっていた。
「長谷川君は男子生徒から悪質な虐めをうけている」
心配しながらも、行動に移さなかった。
卒業後も私は傍観者。
ある日、信号待ちしていたところ、長谷川君とすれ違ったことがある。
声は掛けなかった。掛けられなかった。
地震のあとに迫る津波のように、罪悪感が私を襲った。
『傍観者』という言葉が体に重く突き刺さる。
せめて、せめて、声を掛けよう。
罪は消えなくとも、償うことはできる。
蝉が騒ぎだす真夏、昔よりもはるかに背が高くなった長谷川君を見つけた。
偶然か必然か、以前すれ違った場所で。
私に迷いはなかった。
肩を叩いて、久しぶりって言って、今までしたことを謝るんだ。
頭の中で予行練習をしたあと、すぐに実行に進んだ。
傍観者 Erin @Little_Angel
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