第4話 夕日を蹴る その4

Ⅰ:猫のあくび

Ⅰ-4:乾いた涙


一筋の涙も知らぬ別れの後 目に映るのはうす紅の春


休日に雑木林をひとり行くわたしをつつむ木立のため息


どこからか聞き覚えのない歌がかすかに聞こえる夕凪の時


亡き友と思しき人の夢をみて乾いた涙がこぼれる朝


夏雲が水平線をこえようととくとく進む船をひと呑み


ゆっくりと棚田を下る秋風の裾をつかむよしおからとんぼ


夕暮れの丘に立ちたる鬼百合は時間を止めて絵画とならん


昼間ごと眠りについたかのような縁側にはやさしき陽だまり


夏木立「我ぞ」「我ぞ」とざわめいて空に碧(アオ)きを乱反射する


放課後のチャイムは置き去り枯れ野原じゃばらの影が低空飛行


ゆるやかな夏の終わりを吸い込んだこの種に何を託そうか

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三十一フル(みそひとふる) @hasegawatomo

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