第四話
数日後、コンサルタントの仕事を終えた雲林院が伸びをしながら歩いていた。
誰かを探しているのか、視線を泳がせている。少し歩いたところで、複数人の鬼と談笑する男を見つけた。
雲林院は笑顔を浮かべ、息を吸い込み、地獄中に響き渡る阿鼻叫喚にかき消されないよう、声を張り上げた。
「おぉーい!!四季くーん!!」
雲林院が駆け寄った先には、立ち話にも背筋を伸ばし、缶コーヒーを傾ける男。
誰あろう、四季である。
どういう訳か、四季はまだ地獄にいたのだ。
呼ばれた四季は、振り返って手を振った。
「どーも」
四季は周りの鬼と同じ簡素な和服を着て、
なんと手には鉈を持っていた。
所々に赤黒い錆びが付いているが、本人はいたって平然としている。
極めつけは……
「おっ、似合ってるね!その角!」
雲林院が頭部へと伸ばした手を四季は真顔で掴んだ。
四季の頭には、小さな円錐が乗っていた。
そう、四季は鬼になったのだ。
数日前、雲林院が四季に出した提案。
それは、地獄で受刑者たちを監視したり痛め付けたりする鬼になることで、数十年後、地獄に落ちた例の社長を存分に殴り倒せる
という狂気の選択肢だった。
だが、四季は本人が驚くほど躊躇なくその道を選び、こうして地獄ライフを過ごしている。
これも地獄の公務員の一種らしく、
待遇や労働環境の健全さに四季は涙した。
ブラック企業に入社したおかげで、この
優良な職場に就けたことに、運命の皮肉を感じずにはいられない。
「アイツがここに来るまであと三十年かぁ」
それまでにこの血なまぐさい現場に慣れておかないと、とぼやく四季の肩を雲林院は軽く叩き、
「地獄での三十年なんて、すぐに過ぎるよ!それより、もっと生産的なことをしよう!」
「例えば?」
「今から飲みに行くとか! 」
地獄にも居酒屋があるのか。なんて、今さら
四季は突っ込まない。
ここでは大概何でもアリだと割りきって、
すでに速足で歩き始めている雲林院を追った。
素敵な来世をお約束します 凍宮 @kry0318
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