【想いのその先に】 第十一部
「やっと来た〜」
「これでも電話切られてすぐに着替えて来たんだぞ」
神社の入り口で待っていた奈々実はしっかりと着込んだ上着に対し、下はスカートに黒いタイツ?のみとだいぶあべこべな格好をしていた。女性ってすごいなぁっと少し思う。
「そっかそっか。なら許す。って、まだユメちゃんは戻らないんだね……」
「あぁ……」
道端先生に会ってからその次の週にまた行ったがまだ検査は終わらないとのことだった。そして、今後も一週間してから行くと思っていたが、現状すぐに解決しないということで何かあればこちらから連絡するとのこととなり、あの日からかれこれ二、三週間ほど経っていた。
それに伴い、俺のそばには代用のアンドロイドが置かれるようになった。それがさっき俺の家にいたサナであった。
サナは道端先生の研究所にいた最新型のアンドロイドでこちらが意思を告げる前に自分で考え行動するようになっているとかで、俺が小さい頃にいたアンドロイドよりも高性能でより人間らしいとか。
もちろん、俺としてはユメ以外に考えられなかったが道端先生としてもこれは譲れなかったらしい。契約が切れるまでは絶対に対象者となる者にはアンドロイドが一緒にいなければいけない。もしもそれを放棄すると言うのならこのままユメとの関係。つまり契約は破棄され、俺は春を待つまでもなく一人となってしまうらしい。しかしながらそれは、俺の場合においてであって、俺はすでにアンドロイドを国に返却する年でもあったことからそういう手続きになるとのことだったので、俺はサナを家に連れて帰ることにした。
「それで、新しい子はどうなの?」
「あぁ、とてもいい子だよ」
「その割にはそう言う風に見えないけど?」
「当たり前だろ。そんなの……」
「まぁ、そうだね……」
神社の入り口、多くの人々が行き交い、その人たちの多くが俺たちの横を通り過ぎ本堂の方へと向かう中俺たちだけがじっと佇んでいた。
「じゃあ、そろそろ初詣にいこっか」
「そうだな」
やっとのことで俺たちは本堂の方へと歩き出す。
元旦ということもあり、多くの人が神社にはいた。そして、深夜にも関わらずあらゆるところで光が灯っており、深夜でありがなら昼間さながらの活気がそこにはあった。
「そういえば、晴人はいないのか?」
「あ、うん。ハルは家族と別のところに行くらしいよ」
「そっか。ならしょうがないな」
「そうだね」
毎年俺とユメ。そして晴人と奈々実の四人で来ていたが、そんなこともあるだろうと俺は考えた。何しろ今年はユメもいないし、こうして奈々実と二人っきりになるくらいなのだから。
「あ、そうだ。私合格してたよ」
「そうだったのか。それはおめでとう」
「ありがとう」
奈々実は俺に賞賛されにっこりと微笑む。その笑みは光に照らされ輝いて見える。
「しかし、悪かったな。祝うのが遅くなって」
「いやいいよ。今はそれどころじゃないでしょ叶汰」
「まぁ、な……」
意図しなくてもどうしても俺の話となるとユメの話題が尽きない。そのせいもあり、どう会話をしていてもこうして気まずい雰囲気になってしまう。俺としてもどうかしたい。そこで俺は露店に向かって歩いて行く。
「か、叶汰?」
露店で売っていた綿菓子を買ってそれを奈々実へと渡す。
「遅れたが、合格祝い」
「綿菓子って……。変わらないね」
「ん? 他のが良かったか?」
「いや。これでいい」
俺の手から綿菓子を受け取り、一口頬張り「美味しい」といってもう一口ほうばる。
「にしても、神様に会いに行く前にこんなことしててもいいかな?」
「安心しろそのくらいで怒る神なら、会うどころか神社に入る前に追い出してる」
「どういうことかな、叶汰??」
「冗談に決まってるだろ。っておい、やめろって!」
奈々実は俺の左腕を掴み、おもむろに自分の方へと引っ張る。そして、俺たちの距離はゼロとなり、俺はぐっと体に力を込める。
「罰として、腕つかませなさい」
「へっ……?」
てっきり放り投げられるか、締め上げられるか覚悟していたが、予想に反し奈々実は俺が見てもわかるくらいに頬を赤くし、少しうつむきながら俺の左腕を自分の右腕と体で抱き寄せる。
「ほら、行くよ」
「う、うん」
奈々実は少し早く歩き出し、俺はそのスピードについて行くような形で二人、腕を組んで歩き始めた。それは、はたから見ればカップルそのものだった。
「ねぇ、叶汰はこれからどうするの?」
「どうするってなにがだ?」
「なにもかも」
「抽象的すぎないか?」
「じゃあ、これから一人暮らしするかどうか」
俺が今年から行く大学は今の家からでも十分に通える。一人暮らしをしてみたい気持ちもあるが、逆にそれ以外に一人暮らしをする理由も見当たらず、親とは相談こそしてないが、今のままの家から通おうと考えていた。
「一人暮らしはしないかな」
「大学では何か入るの?」
「サークルとかか?」
「そう」
オープンキャンパスやパンフレット、学校のホームページなどで少しサークルや部活なんかには目を通していたが、あまりこれといって惹かれるものはなかった。でも、大学に行けば、晴人や奈々実はいない。だから、友達づくりという意味では何かしらに入ってもいいかもしれない。それに、今まで活動してこなかったのだから、大学は今までの学校に比べ一気に自由度が広がる。それこそ、俺が入った年に新しいサークルなんかもできるかもしれない。
「何かしらのサークルに入るとは断定できないけど、入る気がないっていうわけではないってところかな」
「バイトはするの?」
「それはするよ」
「これは即答なんだね」
「まぁ、今までしなかったのがおかしいくらいだったと思うけど」
俺たちの高校ではアルバイトに対して、別段厳しいわけではなかったので、学業に支障をきたさないのであれば、誰でもアルバイトはできた。それでも、俺がアルバイトをしなかったのは別にお金には困っていなかったし、そこまで何かを欲するようなものもなかった。
「じゃあ最後の質問」
「うん」
気がつくと俺たちは本堂の目の前にまで来ていた。ここまで来ればさすがにすんなりと進むことはできず、参拝している人の塊に出くわした。
目の前ではいろんな人が手を合わせ、思い思いの願いを神に祈っていることだろう。そして、俺たちもこれから参拝するわけだが、俺は何をお願いしようか想いを馳せていた。そして同時に、奈々実の質問が何かを考えていた。
「これからも一緒にいてくれる?」
様々な人たちのあらゆる人々の声の中、奈々実の声をしっかりと聞こえた。そして、それは同時に言い訳のできない状況を意味していた。
別に、どこぞの鈍感主人公みたいに「え、なんだって?」っていうこともできたけど、俺はそこまで鈍感でもないし、非常識でもない。
奈々実がこの言葉にどれだけの想いを込めているかもわかっているつもりだし、どういう意味で言っているのかもわかっているつもりだ。だからこそ、しっかりと明白な答えを言うべきこともわかっている。
しかし、俺にはそれができない。今の俺にはそれができなかった。
「一緒にいられたらいいな」
結局、弱気で曖昧な答えしか返すことできなかった。そして、その声は自信がなく奈々実の質問の時よりも声は小さかった。
だから、奈々美に聞こえていたかわからなかったが、奈々実は俺の隣でこくりとうなづいてくれていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます