【想いのその先に】 第十部

暗い部屋の中、携帯の鳴り響く音で俺は目を覚ます。


 そして、寒い中布団の中から出て、鳴り光っている携帯を机の上から手に取る。携帯の画面には“奈々実”と表示されていた。携帯をスライドし、通話にする。



「ねぇ、初詣行かない?」


「行きたくない」



 起きてすぐの虚ろな目元をこすりながら豆電球のかすかな光で照らされる部屋の時計を確認する。すると時刻は夜の十二時を少しばかり過ぎたあたりだった。


 そして、昨日は大晦日だったので今日は元旦であった。



「てことは、行けないわけではないんだよね?」


「それは言葉の綾ってやつだ。行きたくないと言ったが実際行けないのと一緒だよ」


「もしかして、もう家族の人たちと行ってたりする?」


「いや、両親は寝てるけど」


「じゃあ、どうしてこれないの?」


「俺も寝るから。というか寝てた」


「なら、これるじゃん」


「あの、俺に自由はないの?」


「いいから今すぐ着替えて毎年来てる神社に来なさい」



 そこで携帯の通話はプツリと切れてしまった。否定することもできなかったので渋々俺は部屋着から着替えを始めるためにクローゼットを開く。


 奈々実の言う通り実は初詣には毎年行っていた。それは今から十年以上も前から欠かさずに行っていた。でも、今年行っていないのには理由があった。



「どこかに行かれるのですか?」



 俺の部屋の隅に正座で鎮座しており、俺が電話に出たくらいからずっとこちらをじっと見つめてくる女性。いや、アンドロイドが話しかけてくる。



「あぁ、友達と初詣に行ってくる」


「このような時間からですから、私も……」


「いや、大丈夫。俺ももう大人だから」


「かしこまりました」



 俺の返答に答えると上着を着るのを手伝ってくれるそのアンドロイドはユメではなく、サナというアンドロイドだった。


 サナは俺の上着を着させるとすぐに部屋のドアを開けてくれる。



「前にも言ったけどそこまでしなくてもいいよ。そのくらいできるから」


「かしこまりました。以後気をつけます」



 俺が部屋を出て、玄関へと向かう間もサナは俺の後をついてくる。



「おかえりはいつ頃になられるでしょうか?」


「多分すぐにでも帰ってくると思う。もしかしたら朝方になるかもしれないからそのつもりでいてほしい」


「かしこまりました。では、明日の七時ごろにもなっておかえりいただけない場合は……」


「もしも帰ってこなくても探さなくてもいい。あと、このことは両親が朝起きた時でいいから報告しておくこと。なお、親もこのことは毎年のことで把握しているから俺のことについて追求することはしないこと。一日以上たっても俺がここに帰宅しない時にかぎり俺を探すこと」


「かしこまりました。朝方ご両親の方々が起床した時に報告させていただきます。また、一日以上叶汰様が帰宅されない場合は捜索に当たらせていただきます」



 靴を履きながら俺は軽く返事をする。



「あと、様はいらない。さんもいらない。かなたでいいから」


「かしこまりました。かなた」


「それじゃあ行ってくる。俺が家を出た後は俺の部屋に戻ってゆっくりしていてくれたらいいから」


「かしこまりました。いってらっしゃいませ」



 俺に対し、深くお辞儀する彼女を目の端で捉えた後、俺は家の玄関を開け、雪の降る真夜中奈々実のいる神社へと向かう。

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