【想いのその先に】 第二部
ただ右から左へと流す授業はいつの間にか終わり、下校する時刻となっていた。
「おい、叶汰」
「ん?」
後ろから呼びかけてくる晴人の方を俺は向く。
「これから園上のところに行くのか?」
「あぁ、そのつもりだが」
「なら、急いだ方がいいぞ」
「なんかあるのか?」
「そりゃ、あいつも今週受験なんだ。一分一秒でも勉強したいだろ」
「そうだな……」
「なら、呑気に学校に残ってるわけないだろ?」
テスト勉強や自習なんかなら学校に残り、図書室でもやるのはありえるが、受験勉強においてはほとんどの場合は長時間の勉強。先生に教えて欲しいところなんかがあれば残っていてもおかしくないが、先生たちもこの時期は忙しい。そうなってくると家で黙々と勉強している方が効率的にも良かったりする。
「晴人の言う通りだ。行ってくるよ」
「あぁ。頑張れって言っておいてくれ」
晴人の伝言を受け取り、俺は教室を後にした。そして、すぐに下駄箱へと向かい外履へと履き替える。
顔を上げると、校門前に運良く奈々実が一人で歩いているのが見えた。俺はすぐに奈々実に向かって走って行き、校門を出たところで奈々実に追いつくことができた。
「大変だな、奈々実も」
「えっ、うわっ! 叶汰!?」
単語帳とにらめっこしながら歩いていた奈々実は俺の突然の問いかけにかなりびっくりしていた。
「いくら時間がないとはいえ、歩きながらの勉強は危ないし、効率が悪いと思うぞ?」
「そう? 少しでも時間を無駄にしないようにって考えたら、効率がいいんじゃない?」
「時間的な考え方なら確かにそうだが、集中力的にはそうとは言えないだろ。ただでさえ歩いている時なんて色んなことに散漫になるのに、単語帳に集中なんてしてたらもしもの時に対応できない。そんなことを考えてたらなおのこと集中できないしな」
「確かに……。なんか妙に言葉に重みがあるね?」
「まぁ、なんだ。俺もいろいろあったんだ……」
俺も今の奈々実のように登校中に単語帳を読みながら歩いていたら、一回の登校中に三度もものに当たれば、さすがにこの勉強法のずさんさを学ばざるを得なかった。
「わかった。今日は叶汰もいるしやめておこうかな」
奈々実は手に持っていた単語帳をカバンにしまい、改めて俺の方を向いてくる。
「一緒に帰ってくれるんでしょ?」
「あぁ」
目の前の信号が青になり、俺たちは歩き始める。
「それで、何か私に用でもあったの?」
「用と言うか、なんというか……」
「なんか歯切れ悪いわね」
俺は素直に応援しに来たと言うことができなかった。なんだか恥ずかしかったし、それに俺を好きだと言ってくれたのにそれを振った身としてはやはりどこか気難しい感じがあった。いつものように話しかけたつもりが、次の言葉に困る始末だ。
「もしも、告白のことを気にしてるなら大丈夫だから」
うじうじと悩んでいる俺に対し奈々実ははっきりとそう告げる。
「私は気にしてないし、今は受験のことで頭がいっぱいだから」
俺の方をまっすぐな眼差しで見てくる奈々実。そんな奈々実を見ていると自分の考えていることのちっぽけさを思い知らされた。
「実は、奈々実の受験が今週だって晴人に聞いてな。それで、応援しに来たんだよ。まぁ、その感じだと、俺の応援はいらないかもしれないがな」
「そ、そんなことない……」
「え? なんか言ったか?」
「え、いや、ううん。ありがと」
「いやいや、感謝されるようなことはないよ。俺としても何かアドバイスとか教えられるところがあれば教えたいと思ってたから」
「ほんと? ちょうど分からなかったところあったから教えて欲しいな」
「あぁ、俺がわかる範囲ならいいぞ」
「やった。じゃあどうしようか。どこか寄ってく?」
「そうだな。その方がいいかもしれないな」
「じゃあ、いこー!」
「おいおい、張り切りすぎだろ」
「そう?」
俺の方を見ながら不思議そうに首をかしげる奈々実。
「いや、いつもの奈々実だよ」
「でしょっ」
奈々実はそう言って、俺よりも早く歩き出す。
そうだ。俺はいつもこうやって少し後ろから奈々実の背中を見ていたなと心の端で思った。
「そうだ」
「ん? どうかした?」
俺は思い出したこと奈々実に告げる。
「晴人も奈々実のこと応援してたぞ」
「そっ」
「えっ、それだけ? 応援してくれてる友達にそれだけですか?」
「どうせ、自分は合格してるから私のことを面白がってるんだよ」
「そんなこと…………。 あるかもな……」
これまでの晴人の行いを鑑みて見るとあながちその可能性が見えてしまうのが悲しいところだ……
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