【想いのその先に】 第一部
しんしんと外では雪が降り、冷たいアスファルトの上には白い雪が積もり、道路にはついさっき除雪車が雪をどけたばかりだというのに、もう薄く雪が積もっている。
「叶汰。そろそろ行かないと学校に遅れますよ」
「あぁ、分かってる」
家の玄関を開けたまま止まっていた俺に寒いのにも関わらず、玄関まで来てくれたユメが問いかける。
「忘れ物はありませんか?」
「大丈夫だよ」
これ以上ドアを開けていると、中にいる母さんたちまで寒くなってしまうから扉から手を離し、玄関を閉めようとする。しかし、閉まりゆく扉にユメが手をかけて、俺と一緒に外まで出て来て、ゆっくりと扉を閉める。
「寒いから、もう中に入ってていいよ」
「いえ、いつものことですから」
高校生にもなった対象者をここまで送り出そうとするアンドロイドがいるだろうか。そもそも、対象者の方が嫌がって、なくなることなのだが、俺は嬉しいから今日まで断ることはなかった。
「いつもありがとう」
「いえ」
ユメに感謝を伝えて、俺は学校へと向かう。
その時、郵便受けに何かが入っているのに気づき中を見る。
「何か入ってましたか?」
「あ、あぁ。でも、どうやら俺宛らしい」
「なら、こちらで預かっておいて、帰って来てから確認されますか?」
「いや、学校に行ってHRまでの暇な時間にでも見るよ」
「そうですか」
そう言って、郵便受けに入っていた残りのものをユメに渡す。
「それじゃあ、いってきます」
「いってらっしゃい」
かれこれ一ヶ月ほど使っているビニール傘を広げ、俺は薄く雪が積もった道路に新たな足跡をつけて、学校へと向かう。
学校に着くと晴人がすでに来ていた。
「お、おはよう叶汰」
「おはよ」
いつものようにドサっと机の上にカバンを置く。しかし、置くのは俺の席ではなく晴人の席の机に。
「おい! その雪がまだ残っているカバンを俺の机に置くんじゃねぇ!」
「なんだよ。せっかくの友達からの受験祝いを嫌がるなんて」
「世界のどこに友達の受験祝いに机を濡らすプレゼントをする奴がいる?」
「え、ここに?」
「お前ってやつはだな……」
雪が降る地方あるある? はさておき、俺は自分の席にカバンを置き直して、机に落ちた俺からのプレゼントを拭いている晴人の前で今朝届いていた封筒の封開ける。
「なんだそれ?」
「政府通知だよ」
「お前、なんかしたの?」
「なんでそうなるんだよ。お前のところにも来てるだろ?」
俺の言葉で少し考える仕草を見せ、ハッと気づく晴人。
「あぁ、アンドロイドのやつか」
「それだ」
封を開けた封筒の中身は言った通り、アンドロイドのことについてだった。
「もう、そんな時期なんだなぁ」
「そうだな……」
ユメが誘拐されて、そして、俺が受験校へ受験し、そして無事合格してからはや数ヶ月が経っていた。
親に知られないようにあの時は動いていたから、別段怒られるようなことはなかった。なぜなら、自分の息子が事件に巻き込まれていて、受験日の真夜中に帰ってきていたなんて、知らなかったのだから。当たり前のように朝起きて、ギリギリまで勉強していたであろうクマを見せながら、受験校へと行くだけだったのだから。
唯一、心配だったのがユメだった。両親についてもさすがにいなくなっていたユメがいきなり家に帰っていたからびっくりしていた。それで、俺のことを話されることが心配だったが、どうやら、誘拐されていて、それを道端先生に助けてもらったと話したらしい。そして、俺のことがあるから、すぐに家に帰るように言われたと、俺のことは一切話していなかったとか。
そんなこんなで、俺は無事第一志望の大学に合格。ユメも戻ってきて、そんでもって、晴人もなんだかんだ第一志望の大学に無事合格。あと心配することといえば……
「そういえば、園上は今週受験らしいぞ」
「そうか。今週なのか奈々実は……」
「結構頑張ってるぞ」
「そうだろうな。なにせ、俺たちの中じゃ一番成績悪かったからな」
「まぁ、決して低いわけじゃないんだけどなぁ」
奈々実の成績は確かに俺たちより低いが決して悪いわけじゃない。その辺の大学なら余裕で受かるほどには成績はある。しかし、今の時代その安易な行動がこれからの人生をダメにしたりする。だから、先生たちも少しでもいい大学へと勧めてくる。
「それで、行けそうなのか?」
「神のみぞ知る」
「おい、大丈夫かそれ……」
「心配なら応援しに行ってやったらどうだ?」
「俺が行っても仕方ないだろ……」
「お前以上に適任者を俺は知らないけどな。二股君」
「おい、なんだその失礼極まりないあだ名は?」
「おろ? 何か語弊があったかな?」
「語弊しかない……。ちょっと待て、なんでお前がそれを知ってる?」
「はて、なんのことだか?」
あからさまに目をナナメ上の方に向かせ、下手くそ口笛を吹いてみせる晴人。
「おい……」
「まぁ、冗談は置いといて近くで見ている俺からすればわからない方がおかしな話だ。ユメちゃんの件についてはお前のカミングアウトがあったから知っていたのは当然だが、園上の方だって気づいていないのはお前だけだ」
「そうだったのか……」
「あぁ」
それだけ、奈々実が俺に対して想い続けて来てくれたのに、やっぱり俺はそれに答えられていなかったと改めて思い知らされた。
「今日にでも奈々実のところに行ってみる」
「あぁ、それがいい」
そんな決意をしたところで、チャイムが鳴る。まもなくして先生も入って来て、朝のHRが始まる。俺は手に握っていた封筒をカバンの中に押し込み、目の前のことに集中する。
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