【見えないからこそ、強きチカラ】 第十九部


 まもなくあの廃墟に着く時、携帯で時刻を確認する。時刻は予定通り十時前を示していた。そして、SNSの通知が来ていたので開いてみる。そのつぶやきは俺と同じようにアンドロイドが行方不明にあっていた人のものだった。


『つい先ほど、アンドロイドが帰って来ました! 心配してくれた方、情報をくれた方など、ありがとうございました。これから警察の方々にも話をして来ます。本当にありがとうございました!!』


 どうやら、あの人の方は一件落着したようだ。今はユメのことで頭がいっぱいだが、やっぱり自分と同じ心境だったはずのあの人のことは心のどこかで思い続けていた自分がいた。何も解決してないけど、少しだけほっとする。

 しかし、目の前にあのビルが見えて、俺はもう一度覚悟を決める。

 そして、辺りを見渡し、誰もいないことを確認する。俺はこの間みたいにビルの中に忍び込み、ユメの場所へと一直線で向かう。もちろんその間、誰かいないか警戒はするが誰もいなかった。それはまるで嵐の前の静けさを感じさせた。ただでさえ高鳴る鼓動がさらに嫌な音を立てる。

 そして、ユメのいるであろうこの間の部屋の隣の部屋まで着く。そこで俺は床に散らばっている石を一つ手に持って、廊下へと投げる。


 すると、石は壁や床にあたり、音を響かせる。

 これは結構賭けだった。もしも、ビル内に何人か人がいれば今の音ですぐにでも向かって来るだろう。しかし、事前に人がいないことは上がって来るまでに確認している。それに今の音ですぐに駆けつけてくるような人は誰もいないことが確認でき、隣の部屋にいるはずの男を確実に一人だけ、そこへとおびき寄せることができる。

 俺はそこに来た男に不意打ちをかまそうと考えていた。さすがに無防備な相手に殴りかかるのはどうかと思うが、相手は犯罪者。男たちがやってきたことに比べればなんといったことはない。俺は廊下の見えるドアのすぐ近くで息を潜め、男が来るのをじっと待つ。男が隣の部屋から出て来て、音のした方を見た瞬間。その瞬間、部屋から出て来た男の視界は完全に俺から外れる。その瞬間を俺は逃さない。あとはその時を待つだけ。

 どうやら、音がしてから他の階から人が来るような音も気配もない。やはり、このビルにはあの男だけだったようだ。どうやら、状況は俺に味方している。あとは目の前に現れる男を殴り飛ばすだけ。一発では気絶までいかなくても、数発殴れば気絶させるくらいはいけるだろう。ぐっとその瞬間を待つ。


 しかし……


(どうしてこない!?)


 男はいつまで待っても来ない。俺が音を鳴らしてからもう何秒、何分経っているかわからないが、全く男が現れない。もしかして、トイレにでも行っているのか? それとも、警戒して出て来ないのか。どちらにせよ予定がずれる。

 頭の中で一分数え、一分が経っても男が現れる気配がなかったから、俺はゆっくりと自分の部屋から出て、ユメのいる部屋へと移動する。

 そして、ドアのところからゆっくりと中の様子を覗く。

 部屋の様子は俺のいた部屋と大して変わらない。しかし、その部屋には一つだけ大きな違いがあった。

 俺は中の様子をじっくりと確認してから、部屋の中へと入っていく。


「ユメ大丈夫か!」


 部屋の真ん中あたりに、椅子に結び付けられたユメがいた。すぐに持って来ていたナイフで縄を切って、ユメを救う。


「何もされてないか?」


 俺はユメの体を見て、少しばかり来ている服が汚れているが、特に殴られた等の外傷がないことを確認する。


「それじゃあ、ここを出るぞユメ!」


 俺はやることをやってすぐに脱出を試みる。


「ダメです、叶汰」

「えっ?」


 俺はさっきから全く動こうとしないユメを再び見る。すると、ユメは俺が入って来た入り口の方を見ていた。


「やっぱり来たか……」

「っ!!」


 入り口を見ると、一人の男が立っていた。その声はあの冷静な声をした男だった。


「お前、どうしてここが分かったんだ?」

「答える義理はない……」

「そりゃそうだ。人のアンドロイドを盗んだやつに話すことじゃあない。どうせ、あいつが尾行でもされたんだろ」

「案外、おっさんかもしれないぜ……」

「虚勢を張るのは結構だが、ちゃんと考えてからものをいうんだな。残念だがその答えはNOだ」

「どうして、そうだと言えるんだ。お前だって今こうやって盗んだものを取り返させられてるじゃないか」

「一つずつ答え合せをしていこう坊主」

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