エレクトロニック

ボンドレイク

エレクトロニック


ある男がバス停のベンチに座っている。ベンチはかすかに汚れ、男のあとには行列。男は会社員で、今彼は通勤中である。男は目をこすり、あくびをした。男は訳もなく窮屈を感じ、汗をかいた。バスを待つ。


 男の目の前を自転車が通りすぎる。良い香りが漂った。


男の頭にある記憶がちらつく。あのときも男は座っていた。おしゃれなバックグラウンドミュージックが流れ、オレンジ色のライトが空間中にひかり輝くレストランの窓辺。座り心地バッチリの椅子。男は深呼吸をし、神に祈った。男は彼女を待っていた。


バスが男のいるほうに向かってくる。男のすぐ前に停車し、ドアを開けた。男は乗り込みつり革を握った。うしろから大量の乗客が押し寄せる。男は動けなくなり、もっと汗をかいた。


デート相手が男のいるレストランに入ってきた。女の香りが漂った。女はすぐ男に気づき微笑んだ。男は緊張し、自身のひざを握った。男は固まりかけていた。


男は人々の間に挟まり、寝てしまっていた。男は目を覚まし、周りを見回した。男の隣にいる人が、いかにも不愉快そうな顔をした。男は昨夜の酒のせいだと思った。するとバスがとまった。他の乗客が降り始める。男も降りようとした。だが男はあることに気づいた。ここは終点だと。男の乗っているバスは会社を通りすぎてしまっていた。


女が男と向き合うようにして座った。男は全てが成功することを信じて、会話を始めようとした。だがそこへ着信音が鳴り響く。男の携帯電話だ。それは会社からの連絡だった。


  今から重要な仕事がある。


その言葉を聞いた男は席を立ち上がった。女に別れの言葉を告げ、レストランから去った。



男はバスを降りた。だが、男は降りたところで立ち止まった。男の脳裏にはずっと昨日の記憶があったのだ。朝起きたときも、朝食を食べたときも、バスを待っていたときも。くっついて離れなかった。



重要な仕事は大成功に終わった。男は会社からの信頼を得た。そんな男の携帯にあるメールが入った。男は通知音に気づき、画面をみた。

「あなたはとてもひどい男でした。さようなら。もうあいたくありません。」

男はその画面を見つめた。男はその場に立ち尽くした。



そして男はひざから崩れ落ちた。オフィスの床に。バス停所の地面に。



地面に男の汗が垂れていく。涙ではなく。そんな男のもとに電話が入る。男は座り直してから電話にでた。


  なにをしている。君は遅刻だ。早く来い。


という会社からの電話。そのとき男はデジャヴを感じた。


  すまないが、話はここまでだ。


そう男が言い放ち、電話を切った。そして男は周りをみて、場所を確認した。男がやって来た終点は空港だった。その瞬間男は、青い空の中に白く輝いている飛行機をみた。

男は立ち上がった。そして、空港へ歩き始めた。男の周りには時間に追われる人々が。男は窮屈を感じておらず、汗もかいていなかった。その代わりに涙があふれてくる。

男は空港の入り口に立った。男は前を向いていた。男は携帯の画面をみた。画面には、あの女からのメールが表示されていた。

男は後ろを振りむいた。そうして携帯を放り捨てた。


 「私は自由だったのだ」


男は終点から飛び去っていった。

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