神は、砂浜を海の境とした。これは永遠の定め、それを超えることはできない。神よ、私を懲らしめてください。しかし、正しい裁きによって
41 朝日に呑まれて、消えた
逮捕状
海洋国グラス・ラフト第五区
グラン・ハーバー
罪状 大逆罪
「昨夜、貴殿は恐れ多くも、女神ミヨゾティを暗殺しようとした。これは大逆だ。大人しく投降せよ」
彼の後輩リーランドが突き付けた紙には確かにそう記してあった。右下には海洋研究所トップ、ユラ・トンノロッソのサインもある。
「な、何を言っているのですか? ミナトさんは、グラン兄さんはずーっとあたしたちと一緒に居ましたよ。ていうか、どうしてグラン兄さんがミヨゾティ様を
「……そう。でも、ミナトは大逆を犯した」
「え? タカラさん? えっ、それって、どういう……」
「私は裏切られたんだ、もう用済み。だから、ミナトは」
タカラは顔面蒼白で、瞬きもせずに硬直している。
アラシはタカラの異様な様子と突然の意味の分からない逮捕状に狼狽し、当の本人はフゥと長めの息を吐いたのち、これから自宅に帰宅するような軽い足取りでドアへと向かった。その足運びに迷いや憂いはない。
「み、ミナト……」
引き留めるタカラの手を振りほどき、そのままリーランドの目の前に立った。
「キミの話、よくハヤトから聞いていたよ。聞いた通り、生意気そうな後輩だ」
「それは光栄ですね」
カシャン。ミナトの首に罪人の証である白い首輪がはめられる。
ミナトはくるりと振り返ると、その青い瞳を眼前に晒した。
ドアの外からは、宵闇と交差していたはずの太陽がじわりじわりと登り、眩しいほどに真っ白な太陽がミナトの輪郭を白く浮かび上がらせている。
ミナトの青い瞳は相も変わらず明るい星空の様な色をしていて、その眼はテーブルに置かれたグラスの光を反射してきらりと光る。
彼の耳はアラシの息をのむ声を捉えた。
「こんな日がいつか来ると思っていた。アーシファ、ごめんね」
「ちょ、ちょっと待って! え、どうして? グラン兄さんは何もやってないのに、どうして!?」
「僕は大逆を犯した。これは事実だ。――この国にとっては、ね。それに心当たりがあるからタカラも店長も黙っているんだ。わかってないのはキミだけだ」
ねえ、ハヤト。
そう続けるように、ミナトの青い瞳が彼を貫く。
彼は言葉が出なかった。
そんなことあるはずがないと喚き散らしたかった。逮捕状を持つ後輩の胸倉を掴み、ふざけるなと殴り飛ばしたかった。逮捕状をびりびりに引き裂いてやりたかった。
ミナトはもちろん何もしていない。そんなことは、研究所だって、ユラ・トンノロッソだって知っている。だが、ミナトは大逆を犯したのだ。それだけが事実として存在している。
ミナトを連れて、どこかに逃げるべきなのかもしれない。
だが、彼はそんな選択をすることはできなかった。
「ミナト……、悪い。死んでくれ」
「ハヤトさん!?」
「俺はお前を救えない。この状況をどうにかすることなんてできない。俺は俺の立場を
「謝ることなんてない。キミにとっても僕にとっても、これは最善だ」
「二人とも何言っているの!? やめてよ、なんでそんな諦めたようなこと言うの!? グラン兄さん!!」
ミナトは困ったように眉を下げて笑うと、そのまま踵を返した。
「やめて! やめてよ!! グラン兄さんを連れて行かないでよ!!」
「ばか、やめろアラシ!」
アラシは咄嗟にミナトの腕を引くが、他の執行官にあっという間にその手を払われくるりと宙を一回転をする。
――女子供でも、容赦はない。
アラシは呻き声をあげて地面に丸くなった。
「罪人を
リーランドは、アラシにナイフを突きつけた。
「やめろ、アラシ、やめてくれ……」
「ハヤトさん、やだよ、お願い、グラン兄さんを助けてよ」
「俺は何もできない、今だって、何もできない」
「そんなことない、そんなこと……。ねえ、逃げようよ。あたし達だったら遠くまでいけるよ、あたし達は……タカラさんは、人魚だよ」
瞳を濡らし、アラシは祈るように、縋るように彼を。次いでミナトを見る。
ミナトの、その握られた拳がぴくりと動く。だが、すぐに脱力した。
「バカなこと言わないで。そんなことできるはずないでしょ。タカラは僕と同じ、――ただの人魚のなりそこないだ」
夜が明ける。
「ハヤト、僕の
ミナトは、朝日に呑まれて、消えた。
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