44 チープなバッドエンド 2/2
「ミナト——グラン・ハーバーの死刑執行人は、オレにやらせていただけないでしょうか。オレは、あいつの
彼は
「その方が貴官の出世にも箔がつくだろう。良い提案だ、許可しよう」
「もう一つ、首輪管理システムの子機端末・
白い首輪は、罪人の証。
罪人の人魚はもちろんのこと、研究所内にいる人魚は罪の有無を問わず、何かやらかさないようにという抑止のために、やらかした時はすぐに処分できるという
その首輪を外すため、アラシとタカラは外出する度に煩雑な事務手続きをしており、彼も彼女たちも辟易していた。いつかのアラシがそうであったように、彼女たちは研究所に再び囚われはじめている。面倒なだけではない。白い首輪を外し自由を得るたび、白い首輪をつけ罪人のレッテルを貼られるたび、彼女たちの心は摩耗していく。
彼はひしひしとそれを感じていた。
「……
「あんたの息子ですよ」
「まったく、セダムは余計なことをペラペラと……」
「……。」
彼には、今目の前にいるこの男のことがよくわからなかった。翠の眼の青年は実の息子で、少なくとも青年の髪が白くなってしまうその日までは愛情を注いでいたはずなのに、どうしてこうも非情になれるのか。
人魚のようになってしまった青年が許せなかったのか。そんなの、青年の意思でそうなったわけではないのにあんまりではないかと彼は思う。
人魚虐殺計画のこともそうだ。
そもそも、タカラが『ツナ缶』を辞めたり、彼が青年を殺すことになった発端である人魚虐殺計画がなければ、こんなことにはなかなかった。ミナトの処刑で反逆者を炙り出した後、女神信仰を利用して"白い首輪"に似た何かで人魚を皆殺しにするという計画は、あまりに過激すぎる。
彼には、この男は「人魚」という存在そのものに深い恨みを持っており、大義名分をつけてその鬱憤を晴らそうとしているようにしか思えなかった。
男の生い立ちが、トンノロッソの血が、この初老の男をそうさせているのかもしれない。
この国の行末なんてどうだっていい、人魚なんかどうなったっていい。——昔は、男も彼と同じように思っていたのかもしれない。でも、様々なしがらみに囚われ、男もそうなるしかなかったのかもしれない。彼と、同じように。
そう思うと、彼はユラ・トンノロッソを憎く思うと同時に、可哀想だと同情した。
「出所した人魚は、なぜ誰にも人体実験のことを口外しなかったのか。ずっと疑問に思ってました。それは、セダムがやつらに口封じをしてたからですよね。首輪がなくても絶対に漏らさないように、マインド・コントロールをしていた。でも、セダムがいなくなった今、どうやって口封じをするのか。ミナトの死刑執行で炙り出す前に、みんな殺しちまおうって算段なんだろう。人魚の研究員も諸共殺してしまうのかもしれない。そんな危ない状況にアラシを置いておくことはできない。本当は今すぐにでもアラシの首輪を外して欲しいが、そう簡単にできることじゃないことはわかっている。だから、妥協点として
「だがしかし、アレは……」
「オレはあんたに誠意を見せた。だけど、あんたはオレを裏切ってばかりだ。これじゃ信頼できない。だから、オレに安心させて欲しい。あんたを信頼しても大丈夫だと。そうでなければ、女神様はうっかり事故にあって死んでしまうかもしれない」
「貴様……!」
「お願いします」
彼はそう、再び頭を下げる。
ユラ・トンノロッソは、彼の不遜な物言いをいたく気に入っているのだ。
男は彼を自分の後継にしたいと思っている。ただ従順なだけでなく、全ての真実を知り、思惑を知り、憤怒しながらも、利のために国に頭を下げる、そういう人間を欲しがっている。
彼一人ではここまで大胆な行動は起こせなかっただろう。けれど、翠の眼の青年が、そしてトオノが彼に教えてくれたのだ。ユラ・トンノロッソの攻略法を。
「一つ質問をさせてほしい。貴官は計画のことを知っているが、それについてはどう思う。貴官の正義感では許せないことではないのか」
「オレは、タカラとアラシを守ることができればそれでいい。代わりに他の人魚が全員死んだって構わない。オレに正義感があるなんて、買い被りもいいとこだ。オレは、そのためにセダムもミナトも、この手で殺したんだから」
「……いいだろう。よく、働くように」
「はい。オレは必ず、この国を『人魚の民』へと導きます」
(すまん、セダム。お前のせいにしちまった。
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