この世を支配する魔王が生まれるまでのお話
折葉カナ
第1話
勇者は世界を救う。魔王は世界を支配する。それが世界の理であり、皆がそうだと認識している。
では、魔王はどのようにして生まれるのか?
あれ程までに世界を脅かす存在はただそこら辺の魔物同様に生産されるわけはない。
だとしたら彼は何処からやって来たのか。
勇者は村の中で最も勇敢な者が選ばれる。そして旅の道中で頼もしい仲間と出会い、共に魔王討伐を志す。勇者御一行は数々の戦闘を経て、経験を積み、力を付ける。
やがて旅の最終地点である城でようやく魔王と同等の水準まで強くなる。
では魔王はどうだろうか、勇者が勇者になる以前から、彼は魔物を従え、地上を占領し、世界を支配するだけの力を持っている。
何故か?答えは簡単である。
舞台は魔王の城最上階
「遂に来たか勇者よ、待ちくたびれたぞ」
不敵な笑みを浮かべて魔王は言う。
「俺たちがお前を倒し、この世界を闇から救うのだ!」
魔王の威厳に一瞬気圧されそうになるものの、勇者は自らに喝を入れるように言い放つ。
しかし、その勇者と御一行の目は虚ろだ。
旅の中での多くの戦闘で命を奪ってきた精神状態、薬草漬けになった満身創痍の身体。
立ち寄った村の村人たち皆からのプレッシャーに圧し潰されそうになりながらも歩みを進めてきた。
そんな彼らに覇気は無い。
彼らにあるものは目の前の強大な悪を討ち亡ぼすという目的のみ。
その為に再び己の身体に鞭を打ち剣を振る。
「倒した……俺たちは、勝ったんだ」
勇者は勝鬨をあげる。そして旅で立ち寄った村に凱旋する。
「勇者とその一行よ、よくぞやってくれた」
国王から褒め言葉を貰い。盛大に祝われ、一晩中騒ぎ明かした後、それぞれは別れを惜しみながら故郷へ帰る。
「それから?勇者はどうなるかって?」
「魔王の居なくなった世界に勇者は必要ない」
「魔王が居たからこそ、この世界に俺の居場所があったんだ」
「身体だって戦闘で傷ついては薬草や呪文でなんとか誤魔化し動かした」
「心だって欲望に支配されぬよう、期待に応えられるようにと常に気を張って生きてきた」
「ボロボロになって果たした使命」
「それが無くなった今、俺に居場所はない」
「どうしてだ?俺は世界を救った」
「大義を成し遂げたのに、何故?」
「こんなにも、空っぽなのか」
「この世界がおかしい」
「俺が、勇者が、この世界を変えなければ」
「誰もが幸せな世界にしなければ」
「俺が支配しなければ」
やがて、一度救われたこの世界は、新たな魔王の手によって、再び脅かされる事となる。
この世を支配する魔王が生まれるまでのお話 折葉カナ @lleoism
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