5日目 「コーラ」
ペットボトルロケットというのを小学生の頃にやったことがある。
水の入ったペット墓ボトルに空気を注入し、圧力を利用して空高くまで打ち上げる遊びだ。
なんでこの話をし始めたかというと、ふとあるアイデアが浮かんだからだ。
もし中に入っているのが水ではなく、炭酸飲料だったらどうなんだろう、と。
祭りの最中、コーラで喉を潤しているときに僕はどうしても検証したい衝動にかられて、急いで家に帰ると、ポンプと諸々の材料を調達した。
ついでに悪友のYも。
Yは存外やる気で、インターホン越しに提案した途端、家にある炭酸水を抱えて飛び出してきた。
「コーラのほうがカロリーがあるから高くまで飛ぶかもよ」と、頭の悪い会話を交えながら、俺たちは河川敷でロケット発射の準備を整えている。
ペットボトルロケットというのは水:空気=1:3が最も飛ぶとされている。炭酸飲料の場合はどうなるのか分からないが、俺とYは三分の一になるまでがぶ飲みをした。
苦しいお腹に耐えながら、俺たちはポンプのピストンを必死に上下する。なかでは沸騰した湯のように、大きな泡がたっている。
腕に疲れが出始めたその瞬間――ロケットは黒い液体をまき散らしながら天高くに飛び上がった。Yのロケットは発射されたと同時に右翼が外れてしまい、回転しながら対岸へと飛ぶ。
一方の俺のロケットはものの数秒で見えなくなってしまった。もはや落下しているのか飛んでいるのかすら分からない。
想像以上の結果に、二人はぽかんと口を開けながら見つめていた。空一面覆っていた雲が裂けて打ちあがる花火は、
「きっとペットボトルが熱に耐えきれなくて破裂し、花火になってしまったんだ」
と頭の悪い結論に結び付いた。
***
ロケットは昇る。鳥より高く、雲より高く、天より高く――
勢いを失いながらも滝を登る鯉のように、ロケットは何かを目指して突き進んでいき、
「あいたっ!」
丸い月の上でうたた寝をうっていた神様の頭にぶつかった。
「痛た……。何だこれは。コーラ……? ロケット……? また人間の奴らワシのとこに打ち上げおったな。どれクレームでもいってやろうか」
と、神様は見下ろしたが、曇天で下界の様子は一切見えなかった。
「……何も見えん。どれこの扇子で雲を薙ぎ払ってやろう」
神様が扇子を一振りすると、突風が舞い起こり、たちまち雲と雲の間に切れ目ができていった。
神様がその隙間から覗き込むと、色とりどりの花火が咲き乱れていた。
「ほう、今日は祭りだったか。……折角だしワシも参加してみようかな。このロケットを打ち上げたやつにもクレームをつけてやらんとな」
そう言い、神様はぴょんと月から飛び降りて下界へと降りていった――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます