4日目 「時計」
かわいい時計だった。細い革ベルトに銀の本体。紺の文字盤に散りばめられたライトストーンがまるで天の川のようだった。
それが目に移った途端、私は歩みを停めた。
一目惚れだった。ゲーム機やお菓子の詰め合わせ、ぬいぐるみなどが陳列されている中、一際輝いてみえた。
どうしても欲しい――でも容易には手に入らないのは明らかだ。
なんてたって、そこは射的屋。欲しければコルク玉を当てて倒すしかない。
「お嬢ちゃん、やってくかい?」
店主のおじさんにそそのかされて、私は流れるままに銃を抱える。
玉は全部で五つ。私は息を潜めて、時計に標準を合わせて撃つ――ただそれだけなのに、玉は時計の遥か上方のくまのぬいぐるみに当たる。
でも私が欲しいのはぬいぐるみじゃない。景品の受取を断って、私は二発目を充填する。
さっきの誤差分銃口を下げて引き金を引く――今度は玉は著しく反れてゲーム機に当たった。ゲーム機はどすんと重そうな音をたてて落ちた。
やっぱり私はあれが欲しい。
がむしゃらになって私は二発撃った――が標準を定めてない玉は、一つは明後日の方向へ、もう一つは店主の眉間に当たって店主は泡を吹いて倒れた。
あと一発しかない。私は乱れた呼吸を一度整え、ゆっくりと玉を銃口に詰める。
慎重に標準を微調整して、深く吸って呼吸を止める。添えた左手がぶれないように射的台で固定して、ゆっくりと引き金を引いた。
玉はわずかに景品の右を進もうとした――そのとき突風が吹きこんだ。玉は左方向へ軌道修正する。
そして見事に文字盤に当たり、時計は地面へ落ちていく。
「やった!」
私は射的台を飛び越えて、景品を拾いにいく。
さっきの突風で、曇天に裂け目ができ、隙間から覗く花火はまるで私を祝福してくれているようだった。
喜びを胸に両手で拾い上げて時計を見る――勢いよく射出されたコルク玉は時計のガラス盤を粉砕していた。
私は射的の屋台でさめざめと泣いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます