さいわいなことり
空知音
第1話
この部屋の窓からは、二股に分かれた枝の先端が見える。
何の木か知らないが、春になると広葉樹の葉っぱがつく。
光沢のある葉っぱを見るのは楽しい事だ。つやつや輝くその緑に触れてみたくなる。さぞ滑らかなことだろう。
夏が終わり涼しい風が吹きはじめる季節、夕方になると、私が座る畳の上にその木の影が落ちる。
そして、決まって一匹の小鳥が、枝の上にとまる。
とまるのは二股に分かれた長い方の枝と決まっていた。
灰色と白の混ざった羽毛は、触ると綿のような感触がするだろうか。
鳥は、じっと動かないこともあるが、頭をくるくる回し周囲をうかがっていることもある。
時には、口に何かをくわえていることもある。
それは、くねくね動く芋虫だったり、動かない芋虫だったりするが、なぜか鳥は私が見ている間、それを呑み込もうとしない。
恐らく近くに巣があり、そこに戻って食べるのだろう。
小鳥の目は漆黒で、それは美しい宝石を思わせた。いや、そこに生の気配があるだけ宝石以上だといえた。
小鳥を見た日は何かいい事が起こるような気がして心がむずむずする。そんな気持ちは、結局のところ長く続かないのだが。
今年は、夏が暑かったせいか、小鳥が木の上に現れたのは、ずい分遅い時期だった。
朝夕、急に冷え込んできた時、いつものように木の上に現れた。
ただ、今年はやや小さな鳥が一緒だった。
長い方の枝にいつもの鳥が、短い方の枝に小さい方の鳥がとまる。
時々、お互いに枝をとり替えたり、片方の枝に二匹で並び楽しげにさえずり合ったりした。
私は、孤独な小鳥に伴侶ができたことが嬉しく、日々の仕事にも手がつかないほどだった。
幸運の小鳥は、しかし、私に奇跡をもたらしはしなかった。
処刑の日、足元の床が二つに割れる瞬間、首に縄を巻かれた私の脳裏には独房の窓から見えた小鳥の姿が浮かんでいた。
さ い わ い な こ と り
さいわいなことり 空知音 @tenchan115
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