第108話 真意
「・・・でも、愛し合ってはいないのでしょう?愛してもいない人と、お金のために、娘さんのために、ずっと生活を共にしているのですか・・・?」
思わず口を挟んでしまいました。須藤は何度か、家族が自分と一緒にいるのは金が理由だと話すのを聞いたことがありました。自分はどうせATMとしか思われていないのだと、須藤はこぼしていました。
「あなたは、彼のことを愛しているの?あなたも多少はお金を受け取っていたようだけど。まあ、微々たる額でしたっけ。あなたはあの人の過去の女性たちよりも、慎ましいようでしたね。だから長くなったのかしら。」
彼女の言葉は、悪気もなかったのかもしれませんが私を傷つけました。須藤は毎月、私にお金を渡すことを忘れませんでした。私にとってそのお金は、微々たる額などではありませんでした。私はそれを彼の愛と認識して受け取っていました。
彼女の言葉が、態度が、憎らしくてたまらなくなりました。あらためて須藤のことが不憫に思えてきて、私は感情的になっていました。
「・・・あんな、優しい方はいません。須藤部長は・・・会社に入ったばかりのときから・・・淋しくて、心荒んでいた私をいつも励ましてくれました。」
私はとうとう認めました。あの頃の私が、どれほど救われていたのか。須藤から逃げられるだけ逃げようと試み、背を向けようとしていた頃も。須藤は粘り強く私に働きかけてきて、気にかけてくれました。私にエネルギーを注いでくれることが、どんなに私を救ってくれていたのか、本当はわかっていました。
「・・・彼は私を、愛してくれました。」
彼の妻である女性を目の前にして、おこがましいとは百も承知していました。わかっていましたが、なぜだか、そのように言わずにはいられませんでした。
「ですが私はずっと、愛すまいとしました・・・」
そう伝えたとき、不覚にも、私の声はふるえ、涙をこぼしていました。
「愛すべきではないと、わかっていました・・・でも本当は好きでたまらなかった。」
涙で声が震えながらも、私ははっきりとそう言葉にしました。
まるで挑むかのように。恥じることなど何もないと、叫びたいほどの気持ちで。
それを告げて、どうなるというものでもないのに。許されるはずもないのに。
ただこの人には本心を、偽らざる気持ちを伝えることが私なりの誠意でした。
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