第101話 人員整理

 その頃社内でも大きな変化が起こりつつあるということで、会社側から、かつ組合を通して全社的な周知が行われていました。


 それまでは北海道で独立していた会社が、他の地域のグループ会社と合併し、かつ大規模なリストラを行うことが発表されたのです。リストラといえども一方的に肩たたき的な圧力をかけるわけではなく、まずは希望する社員がいれば、退職を募るという形式でした。


 ただし派遣社員や契約社員の方達は、契約満了という形で、否応なく辞めさせられる人も出てくるということでした。私が社員になってからすでに2年以上過ぎていましたが、もしも契約社員のままでいたならば、自分も危ういところだったとその時は思ったものでした。


 社内的には少なからず動揺が起こっていました。若い社員の中には転職活動を始める人もいましたし、勤続年数の長い、家族のいる男性社員は辞めるメリットが少なく、仮に給料が下がろうとも退職する気持ちはないと表明する方も多くいました。


 女性社員達は、会社や仕事が好きではなく、早期退職によって上乗せされる退職金に魅力を感じている人達もいました。この機会に海外へ留学をしたいと話す方もいました。


 私は営業の仕事が好きではありませんでしたが、この機に乗じて退職しようという気持ちは起こりませんでした。


 退職金は一時的には大金でしたが、勤続年数の短い私にとってはおよそ1年分の年収程度のものでした。せっかく正社員になれたのに、その程度の額で職を失うのは、まるで割に合わないと思いました。


 それよりも、この機に何人かの内勤の女性社員が辞めることになれば、うまくいけばその空いたポストに潜りこめる可能性があるかもしれないという期待が頭をよぎりました。会社の合併、リストラに伴い、多くの人の部署異動や転勤等も増えると囁かれていました。


 会社の体制が大きく変わろうとしている中、少なくとも私は希望退職を選ぶ意思はありませんでした。


 うまく動けば、もしかすると内勤の仕事へ移れるかもしれない。


 自分にとって都合の良いチャンスとなることを私は願っていました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る