第94話 荒む心
須藤への気持ちが強くなっている自分を思い知るほど、私は心乱れやすくなりました。あるとき会社で須藤と倉木さんの噂を耳にした私は穏やかではいられなくなりました。
倉木さんは取引先の、かなり年下の男性と交際を始めたらしいという話が耳に入ってきましたが、それより以前は須藤から食事に誘われたり、彼女の家の最寄り駅で待ち伏せをされた等の、迷惑行為を受けていたという噂が漏れ出していました。
須藤のことですから、その程度のことはいかにもやりそうだと感じたものでした。そして倉木さんは、ごく健全な、まともな精神の持ち主だったのでしょう。そんな男をまるで相手にはしなかったようでした。倉木さんはジャニーズ系のアイドルが好きらしかったので、須藤など圏外だったに違いありません。
一方で、その須藤との関係に陥った私は・・・
私は淋しい女でした。須藤と出会った頃は特に、ひどく傷ついていて惨めでした。世間知らずで、男女のことなどほとんど何もわかっていない、隙だらけの愚かな女でした。
そんな風だから、須藤のような男に引っかかってしまった。さらには月日を経て、そのろくでもない男に執着していたのです。
もしも倉木さんが須藤になびいていたら、私は捨てられていただろうか。
そんな思いがよぎると、須藤に対して面白くない気持ちを抱かずにいられませんでした。噂を耳にして以来、男なんて、やはり信頼のおけないものだという確信が強まりました。
もともと男性からの誘いは極力断る方向でしたが、須藤と付き合うようになって以来ますます疎遠になっていました。
ですがこの頃、私は元夫の貴之からの誘いを気まぐれに受けることもありました。夕食の誘いは頻繁にありましたから、気が向いたときは受けるようにもなりました。以前須藤に連れられて行って気に入ったお店を、貴之にリクエストして出かけたこともありました。高級店でしたが、結婚していた頃はそのような店へ出向くこともなかった皮肉も込めていました。
貴之と出かけるのは悪くない時間でもありました。この人は私と会うことを喜んでいました。離婚してこれほどの時間を経てから、私に連絡をすることが習慣になったかのようでした。
私のことを、あれほど邪険にしていたくせに。
そう内心では呆れながらも、表面的には優しい言葉をかけることもありました。
よりを戻すつもりはありませんでしたが、彼が私に費やすエネルギーは巻き上げるつもりでした。貴之の性質はわかっていましたが、つかず離れずの関係で、体よく利用するための男としてキープするのも悪くないと思いました。
私といることを浮かれてすらいるような元夫の様子に、冷ややかな復讐心を満たしていました。
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