第90話 詰問

 自分の鼓動が早くなるのを感じていました。どう答えるべきなのかわかりかねましたが、長く沈黙するわけにはいきませんでした。


「・・・そうです。最近なぜだか、元夫から電話をもらうようになって。でも大した話はしていませんけど。」


 勇気がいりましたが、ここで妙な嘘をついてしまうと後でややこしくなりそうでしたから、仕方なく正直に話しました。


「・・・ユリちゃんは、俺と別れようとしているの?元旦那とよりを戻すのかい?」


 須藤の口調は落ち着いているようで、かつ表情は不気味な険しさを漂わせていました。


 このただならぬ様子は何事かと、腑に落ちない気がしました。別れたがっていたのは須藤の方ではないかという思いがありました。


「いえ、それはありませんけど・・・私はもう、あの人のことも、結婚も二度とごめんですから・・・ただ、慰謝料を払って欲しいとは伝えました。今さら難しそうですけど。」


 乾いた口調で返したものの、須藤を直視するのが怖いような気がして、私は顔を逸らしていました。


「ユリちゃん、なんだか後ろめたいような顔をしているね。こっちを見て。」


 咎めるように、彼は鋭い声を出しました。険しい顔つきで須藤が歩み寄ってきたので、私は反射的に後ずさりしました。彼は素早く私の片腕をつかんで引き寄せました。乱暴な仕草に拒絶感でいっぱいになりました。


「・・・ユリちゃんは、俺のこと、どうするつもりなの?利用するだけしたら、もう用済みということ?」


 須藤が私の腕を掴む力は痛みを感じるほどでした。彼のゆっくりとした口調は不気味に落ち着きはらっていましたが、表情には怒りがこもっていました。どこか荒々しい、思いがけない須藤の剣幕に私は動転していました。

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