第86話 相談
その取引先の担当者、仮に佐藤氏と呼ぶことにしますが、彼とは初めから関係が悪かったわけではありませんでした。ですが何度かやりとりをするごとに、私が佐藤氏に何かを期待させる部分があったようでした。たまたま一度、飲みの誘いを受けたことも裏目に出たのかもしれません。基本的には受けないようにしていましたが、断りにくいケースもありました。
義理立ての気持ちもあって一度は参加しましたが、酔った相手からいろいろ失礼なことも言われました。それ以来、極力誘いを断る方向でしたが、やがてなにかと嫌味を言われたり、不快な扱いを受けるようになりました。嘘らしいことを言われたり、意地の悪い振り回され方をしたり、腹に据えかねることが何度もありました。
しばらく我慢し続けたのは、須藤が引き継いでくれた有力な取扱店だったからです。少なくとも、須藤とは良好な取引をして、良い売り上げを確保できていた店でしたから、私がそれを潰してしまったとなると面目ないことだったのです。
ですが我慢も限界に来ていました。営業から他部署に変わりたいという件と、少なくとも、その取引先の担当を須藤に戻す、あるいは別の誰かに引き継いでもらうことは私にとっては急務でした。
いざ伝えようとすると少し緊張もしましたが、私は心を決めて話し出しました。
「・・・須藤部長。私はつくづく、営業には向いていないと実感していて。このところ、以前お伝えした佐藤さんのところとの折り合いがますます上手くいかなくなってしまってどうして良いのかわからないんです。」
このような話を伝えるのは不本意で重荷でもありましたが、いずれ言わなくては自分が参ってしまいそうでした。
「ああ。前に話していたっけ。そんな困った人ではなかったはずなんだけどね・・・ユリちゃんとは相性が悪かったのかな。」
以前も須藤には伝わりにくいという印象を受けました。彼には経験するはずもないことでしたが、相手が男性か女性かによって態度を変える人は割合多くいるのです。それが有利に働くケースがなかったとは言いませんが、逆の場合もよくありました。
私は少し感情的になっていました。理不尽な言動や扱いを受け、何度も悔しい思いをしていたことを告げました。営業の仕事自体も辛く感じていること、部署の異動はできないものかと苦い気持ちで訴えました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます