第74話 怒り
「・・・会社にかけて悪いとは思ったけど、他の連絡先もわからないから。会社の人がこの携帯の番号を教えてくれたんだよね。」
苦々しい思いで黙り込んでいました。いずれはこうなることも予測できたことでした。内勤で電話を受ける社員は、営業社員が不在の場合、基本的には折り返し連絡すると伝えますが、営業社員の携帯番号を相手に知らせる場合もあるのでした。
「・・・優理香が営業の仕事をしているなんて、びっくりしたよ。この前はうちのビルに仕事で来ていたの?・・・でも、大変なこともあるみたいだよね。もしかしたら、仕事でつらい時もあるんじゃないかと思ったよ。」
そのように言われ、はっと我に返りました。何をこの人は親しげに、訳知りの様子で話しかけてくるのかと、怒りに心が震えました。
「・・・どういうつもり・・・?どうして今さら連絡してくるの?もう私達はなんの関係もないはずでしょう。何様のつもりなの?」
怒りのあまり、初めはほとんど声が出ませんでした。沸々と、次第に激しい苛立ちが自分の内側で募りました。
「あの頃のことは・・・優理香が怒っているのはわかってる。俺が優理香を傷つけたのも承知している。俺がいろいろ間違っていたから・・・あの時、あんな風に優理香を出て行かせたのも、なんの話し合いもしなかったことも、すべて後悔してる。」
何を言い出すのかと言葉を失いました。なぜ今ごろになって。
「優理香が営業の仕事までして、辛い目にあっているとしたら、とても責任を感じている。」
心に重く、えぐるような痛みが突き刺さった気がしました。
責任などと。思い上がり甚だしい彼の言葉に絶句しました。私は貴之に何も望んではいませんでした。ただ彼と離れられるなら。今後一切の関わりを断てるならば。もう二度と私の人生の中に現れてくれなければ、それで良かったのです。
「・・・何を言ってるの?・・・貴之は、何も、関係ない。全然関係ない・・・」
私はひどく心が乱れ、怒りのあまり声が震えました。
「もう、やめてよ・・・私のこと、そっとしておいて・・・」
心がおかしくなりそうでした。最後の言葉が乱れて、私はやっとその電話を切りました。
私は深呼吸しようとしましたが、息が乱れて嗚咽を漏らしました。久しぶりに聞いたあの人の声は、私をかき乱し混乱に陥れる、十分な破壊力がありました。
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