第72話 苦い記憶
元夫の貴之は結婚していた頃、会社の女性と不倫をしました。当時、夫であった彼との関係に行き詰まりを感じていた私は、彼の携帯を盗み見てそれを知りました。
その時、私の中で何かが弾けたのです。思いやりの感じられない、心ない彼の態度や言葉に、いつも傷ついていた私はそれでも自分が至らないせいだと悩んでいました。外で仕事をせず、お金も稼がず主婦の生活をしていることにも引け目を感じていました。
家事や料理に関しては私なりに、彼の要望に応えられるように努力をしていたつもりです。お金のことも、自分は稼いでいないのだからと節約を心がけるようにしていました。なるべく貯金ができるように、無駄遣いをしないように気を付けていたつもりでした。
ですが後になって思えば、彼は家にいる私が面白くなかったように感じるのです。職場で苦労していたらしいあの人が、彼に養われ生活している私に対して憂さ晴らしをしていたという風にしか捉えられないのです。私がどうあろうと、きっと彼は気に入らなかったはずだとしか思えないのです。
彼の浮気を知った時、その日その時の彼の機嫌しだいで振り回されていた自分が心底馬鹿馬鹿しく、吹っ切れた思いがしました。元夫に見切りをつけた私は、契約社員ではありましたが職を見つけ、仕事を続けられそうだという見込みが持てたところでそれまでいた場所を捨てました。離婚というよりも家出の如くでした。そんな私を、元夫は探そうともしませんでした。
私は彼に慰謝料等の請求もしませんでした。私達はあっさりと縁が切れたはずでした。
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