第68話 弱音
「お疲れ様です。ユリさん、最近疲れ気味じゃないですか?顔つき冴えないですけど、寝不足とか?」
会社に戻ると真矢ちゃんが声をかけてくれました。私は笑顔を向けました。
「うーん、ここしばらく、数字が重くなってうつ気味だけど・・・やっぱり営業向いてないかなって・・・」
真矢ちゃんに指摘され、自分がこのところ浮かない表情をさらしているようだと気付かされました。
「とか言いつつ、売上はいいじゃないですか。ユリさんはよくやってると思いますよ。社内外問わず色仕掛けで頑張ってますもんね。取引先もだいぶ転がしているようだと評判ですしね。」
部署を移動した頃から、彼女にはおじさん荒らしとのレッテルを貼られていました。私はいちいち否定もしませんでした。
「まあ、もらえる契約は有難く受け取らなくてはね。でも、優しい取引先ばかりじゃなくて、苦労もしてますけど。客先でいじめられて、影でひっそり泣いてるのに・・・ほんと、いつも内勤に戻りたいって言ってるのに、全然聞いてもらえないし。」
すでに営業には慣れたものの、私はいつもの愚痴をこぼしました。なんとか続けてはいましたが、やはり営業の仕事は好きになれませんでした。多少給料が下がったとしても内勤の仕事に戻れたらと願っていました。
「でも、何かとおじさん達の援護もありますよね。あ、そっか最近は、ライバルが現れましたね。須藤部長はいま倉木さんにメロメロですもんね・・・?」
真矢ちゃんは時おり私が社内の既婚男性達と交際している前提で話をしました。日によって相手は異なりますが、この日は鋭いところを突いていました。
「そうね、倉木さんには太刀打ちできそうもないから、私から須藤部長が奪われるのを黙って見ているしかないみたい。ハンカチを噛んでね。」
私は少し傷ついた表情を作って答えました。
「桜井さん、お帰り。はいこれ、取引先からもらったからあげる。」
山村課長が近づいてきて、お菓子を手渡してくれました。
「いつもありがとうございます。山村課長の分はあるんですか?」
「おじさんはもう年だから、甘い物は控えた方がいいって言われてるから。甘い物もしょっぱいものも、油っぽいのもお酒も、何も食べない方がいいってみんなに言われてる。」
山村課長のトークに癒され小さく笑いました。いつも愛らしくて大好きなおじさんでした。
「また貢ぎ物ですか・・・山村課長は安定の桜井派ですね。倉木さんも人気ですけど、ブレない一途さがありますよね・・・」
「だから、結婚したいのは山村課長みたいな人だって言ってるでしょ。残念ながらすでにご家庭があるし、日々悩み苦しんでるのにわかってないんだから・・・」
私は悲しい風を装って言いましたが、やはり真矢ちゃんは信じない様子でした。
「ユリさん、相変わらず
「本命は真矢ちゃんだって前から言ってるでしょ。なんで信じないかな・・・?ほんとに内緒だよ。」
真矢ちゃんにはいつもあれこれ勘繰られていましたが、私も日頃の持論を強調しておきました。
「ユリさんはなかなか尻尾をつかませませんからね・・・でもいずれ、暴いてみせます。」
「そっか・・・まあ、頑張ってね。楽しみにしてるね。」
私は他人事のように笑顔で答えました。いつもの真矢ちゃんのトークでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます