第61話 魅惑のひと
須藤との関係はしばらくは良好でした。付き合いが深まるほど私はだんだんと須藤を頼りにし、甘え、依存していました。彼がかなり年上で包容力を感じていたこと、仕事で常に助けられていたこと、人並み以上に収入があるためか、物事に対して寛大であること、体を重ねることで満たされていたことなど、いろいろな要素があいまって私は次第に心も身体も彼に惹かれてしまったのです。
うわべだけのつもりでいたのに、私の思惑はまたも当初より逸れてゆきました。彼との関係を長く続けるつもりはないと割り切ったつもりでいました。彼はいずれ自分に飽きるはずで、どこかでうまく退かなければならないと思いながらも、須藤を失うことが怖くなってゆきました。
須藤との交際が1年半も過ぎた頃だったと思います。私の怖れる気持ちが現実になったような出来事がありました。ある女性が契約社員として入社したことは私達の関係に変化をもたらしました。
その女性は倉木さんといいました。事務職員として入社した彼女は会社に現れたその日から常に注目を浴びる存在でした。小柄でしとやかな佇まいに、大和撫子という表現が良く似合いそうな美人でした。倉木さんにはすごく小さなお子さんがいて、離婚して間もないということでした。
社内のほとんどの男性は、既婚者であろうがなかろうが、彼女に心惹かれているように見えました。そして須藤も、私の前では隠そうとはしているようでしたが、もちろん例外ではなかったのです。
倉木さんが入社した頃からなのか、あるいはすでに彼の私への気持ちは冷めつつあったのか、須藤の私への態度はだんだんと変わってゆきました。かつて熱心に求められていた頃が嘘のように、彼の私に対する関心が次第に薄らいでいったのです。
その反面、須藤の倉木さんへ対する眼差しが、かつての私自身へ向けられていたような光を帯びていたことを察するのに時間はかかりませんでした。
倉木さんという人を目にすれば誰も不思議には思わないことでしょう。彼女は、女性の私から見ても非常に魅力的でしたから、男性ならば心惹かれずにいられないことは容易に想像できました。
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