第55話 営業活動
「今日は初めていろいろな会社に行って疲れたんじゃない?大丈夫?」
その日は朝から須藤といくつかの会社へ出向きました。須藤の担当する取扱店へ同行し、今後は私も担当者として携わるという挨拶まわりでした。
「はい。外へ出るというのは・・・非日常的でした。ただ須藤部長に紹介していただくばかりで、自分ではろくに話すこともできませんでしたけど・・・」
須藤の担当する会社の人達は皆さん親切に接してくれました。もちろんそれは須藤と一緒だからと承知していました。
「ユリちゃんは話なんてしなくてもインパクトあったはずだよ。取引先は色めき立っていたよね。うちに回してくれる契約がうなぎ上りになるのは間違いない。」
須藤は軽い調子で言って笑いました。
「そんなわけないじゃないですか。皆さんお仕事なんですから・・・私なんて、須藤部長の後についてまわる子供のような・・・いえ、金魚のふんみたいでした。本当はすごく場違いとしか思えませんでした。」
名刺交換をする時のぎこちない気持ちといったら。タイミングも、渡し方も、受け取り方も、すべて不慣れで失礼なやり方ではなかっただろうかと心配でした。これらのマナーを調べて勉強しなくてはいけないと感じました。
「そんなことはないよ。ユリちゃんが来てみんな喜んでいたじゃないか。デートしたいなんて言われていたじゃない。正直心穏やかじゃなかったよ。」
たしかにそんな事も言われましたが、お世辞がてらの挨拶だろうと思いました。
「あれは冗談に決まってますよ。」
「ユリちゃんだって若い男に言われたら悪い気もしなかったんじゃないの?でも行ったりしちゃいけないよ。」
「行きませんってば・・・」
苦笑いしつつ答えると、須藤は運転している私の膝をゆっくりと撫でてきました。
「やりたくなってきた。朝、スーツ姿のユリちゃんを見てから、ずっとやりたかった。」
「危ないじゃないですか。運転中ですから。ただでさえ冬道で緊張していますから、ちょっかいを出さないで下さい。」
須藤は会社でも仕事中でも、周りに人がいない時はよく卑猥な言葉をかけてきました。ですがとうに慣れきっていました。
「今日はよく頑張ったね。昼もすっかり過ぎてしまって、お腹も空いてるよね?そばでも食べて行こうか。」
須藤が昼食に誘ってくれました。日頃はオフィスの休憩室でお弁当を食べていましたが、外で昼食を取ることも私にとっては新鮮でした。
「おそば、良いですね。須藤部長はランチスポットも詳しいんでしょうね。」
道案内は須藤がしてくれました。10分弱も運転すると、そばと書かれたのれんが見えてきました。
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