第48話 出産祝い
沙也が出産したとの知らせを受けていましたが、会いにいかないままに日が過ぎていました。須藤と付き合うようになって数か月も過ぎた頃、沙也から家に遊びに来ないかという誘いを受けました。
私は複雑な気持ちでした。沙也が妊娠して以来、本当は沙也に対してすっきりしない感情を抱いていました。彼女はもう、遠い存在になってしまったような気がしていたのです。
さらに私には後ろめたい事実がありました。最後に彼女と会った頃、私は須藤と関係するつもりなどなかったのですが、結局私は彼の愛人になってしまいましたから、それを彼女に悟られるのが怖くてたまらなかったのです。
沙也に会えば、きっと彼女は見抜いてしまう。どんな顔をして彼女に会えたものかと思うと、当然お祝いに行くべきところを何かと理由を並べて会いに行けないことを詫びていました。赤ちゃんがいれば慣れない子育ても大変だろうし、こちらから気軽に声をかけられない気もしていました。
ですが沙也から誘われたならば、いずれは彼女とその子に会うのは避けられないと観念しました。お祝いへ行っていないことも本当は心苦しかったのです。
もともと私は子供に興味がなく、子供が好きだと言う人の気持ちがわかりませんでした。赤ちゃんというものにもまるで心惹かれず、女だというのに著しく母性に乏しい人間と思われました。
かつては親戚の子供と会う機会もありましたが、小さな子供はよだれがすごくて
子供と関わる機会は乏しかったのでお祝いは何を選べば良いのかわかりませんでした。あまり熱心に選ぶ気力もなく、とりあえずデパートでお菓子を買い、子供のものを売っているフロアへ出向きました。
そして子供向けの売り場というのは華やかで可愛らしいものだと感心したりもしました。おもちゃや子供服の売り場を眺めましたが、赤ちゃんの服というものはそのあまりの小ささに何故だか心しめつけられる思いがしました。
どのサイズを選べば良いかわかりませんでしたが、何か月から何か月までという目安が表示されていました。子供の服はすぐに小さくなると聞いたので、月齢よりもやや先のサイズを選ぶことにしました。可愛らしいサイズやデザインだったためか、小さな男の子用のシャツや上着等の洋服を選ぶのは意外と楽しい時間でした。
お祝いの品を買うと、早く沙也に会いたい気持ちになりました。決して疎遠になりたいなどと願っていたわけではありませんでした。子供が生まれ、おそらく誰よりも大切な存在が彼女に出来たのが淋しかったのと、私に後ろ暗いところがあったために自分からは連絡できずにいたわけです。
ですが私にとって沙也が特別な友人であることに変わりはありませんでした。やはり彼女に会いたかったし、須藤のことには極力触れられないようにして、全力でごまかそうと心に決めました。
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