第47話 奉仕

 とうとう私が伝えると、須藤は心得たように私を壁に押し付け足を開かせました。彼が私を貫くとあの快さが体を突き抜け細く叫びました。やはり私はこういう事が好きなのだ、と内側で秘かに認める声がありました。


 須藤が動くほど私は呻き、彼を締めつけ抱きしめました。須藤は別の体勢に変えてみたり、湯舟の中へ移動したりもしました。しばらく夢中で事に及んでいましたが、やがてふと思い出しました。


「そう言えば、避妊していないのですか?」


 我に返って須藤から体を離し、そう尋ねました。


「え、だって生理の時って大丈夫だよね?」


 聞き返されて困惑しました。そういう話もあるのでしょうが、やはり良い気がしませんでした。


「そんなの、だめです。そういうのは嫌です。」


 この期に及んで私達はしばし揉めました。それなら、口でしてくれる?と須藤に言われました。


 私は須藤を湯舟の端のスペースに座らせると、自分はお湯に浸かりつつ彼の先の部分を口に含みました。元夫にはしていましたが、須藤にするのは初めてでした。少しずつ口や舌を動かしながら、彼の反応を探りました。


 はじめ須藤は物珍しげに私を見下ろし、本当にしてくれるんだ、と言いました。私が行為を続けると、彼は身を固くしたり、息が乱れたりため息をついたりしました。彼からはよく焦らされるので、自分もゆっくりしようと思いました。


 いつも感じさせられるばかりでしたがこの時ばかりは立場が逆転しました。時に呻きながら身をよじるこの人をいつ始末しようかと考えていました。あまり長くしすぎるとお互い体が冷えてしまいそうなので、ある程度のところで手と口で先の部分を擦りました。彼は次第に高ぶり身を固くし、声を漏らして放ったものを口で受け止めました。


 須藤が息をつく間、私は口の中の液体を手に出すと排水溝に流しました。おいしくないとわかっていましたが、やはり特有の後味が口の中に残り、うがいをしたい気持ちでした。


 須藤は放心したように湯舟の端に座っていましたが思い出したように湯の中に入りました。私もきちんと温まりたくて肩までお湯に浸かりました。


「・・・ユリちゃんがしてくれて嬉しかった。」


 須藤はお湯の中で私を抱き寄せ、嬉しそうでした。私は笑顔を返すと彼の背に腕を回しました。なにか良いことをしたような気分になりました。なるべくこの人の気に入るように振舞おうと思いました。


 須藤と出会い、思いもかけない方向に私の人生は流されてしまいました。誰かの愛人になることや、営業の仕事をするなどと、以前の自分ならば到底受け入れがたい事態になっていました。ですが現実の日々は淡々と過ぎてゆき、それほど耐え難い環境でもありませんでした。


 須藤はお金まで払って私を愛人にしましたし、この人が私を好きな気持ちは伝わっていました。彼に心開くつもりなどなかったのに、いつしか、自分を好きでいてくれる相手に対し、好意を持つようになっていました。


 だからと言って、好きになってはいけない、と思いました。本気で彼を好きになれば、自分が傷つくであろうことが予測できました。この人と体を重ねるのも、口ですることも、仕事だと考えていました。この人は客であり、彼といることは私にとっての副業なのだと自分に言い聞かせていました。

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