第45話 攻防

 お風呂の蛇口からお湯を出してタイマーをセットすると、再び須藤のところへ戻りました。中途半端にされて少し理性が戻ると、須藤のいいように遊ばれていると感じて面白くない気がしました。


「ユリちゃん、続きだよ。」


 再び抱き寄せられると首筋を吸われそうになり、はっとして須藤から身を離しました。手で自分の首を抑えて守りました。


「首に痕をつけるのはだめです。他のところも、会社で制服に着替えるとき、誰かに見られたらまずいです。」


 かろうじて抗議しました。須藤はすぐに体のいろいろな場所に痕をつけるのでした。


「いいじゃない。彼氏にされたって言えば。」


 この日、お酒を出してしまったのもまずかったのでしょうか。彼は執拗に首を狙いましたが私は自分の手で首を隠しました。やがて須藤は頬にキスを浴びせ、耳を柔らかくねぶりました。私は感覚に耐えられず叫びました。身をよじって須藤から逃れようとしました。


 須藤が彼氏だなどと、不似合いな響きに思えました。身体にあざを残されるのも困りますし、言いたいことはたくさんありましたが、だめです、と繰り返すだけで精いっぱいでした。


 私が乱れるのを愉しむような須藤の態度に悔しさを覚えながらも、身体は彼の行為を求めていました。ユリちゃんはこういう事が好きだよね、とまた須藤は呪いをかけました。私はこれが好きなのだろうか、彼にされることを悦んでしまうのかと恥ずかしく、情けない気持ちになりました。


 彼を愛してなどいないのに、須藤からされることが、肌を重ねることが、いつしか心地よくなっている自分を見出していました。所詮、人は人の肌が恋しいものなのでしょうか。触れ合えばつかの間は安堵し、愛され受け入れられていると認識してしまいそうになるのです。


 離婚して触れ合える存在を失っていた私は、結局のところ須藤が自分にとって特別な、愛され甘えられる相手であるように思い込んでゆきました。家族と冷ややかな関係であった須藤にとっても、同じだったのかもしれません。

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