第44話 申告

「あの、メールでお伝えしていましたが・・・今日はあの日なんです・・・」


 彼に触れられると身体がざわつきましたが、伝えなくてはなりませんでした。予めメールで知らせておいたのですが、須藤は忘れているかも知れないと思いました。数日前から始まったので、この土曜日は家に来るかどうかを確認しました。私がその状態でも彼は来ると言ったので、行為はしないということを了承済みと理解していました。


「ああ、そうだったね・・・体調の方はどう?」


 思い出したかのように、須藤に尋ねられました。


「まあ、具合が悪いとかお腹が痛いということはありませんが・・・でも、その期間なので・・・」


 そう伝えている間にも、彼の手はスカートの中へ滑り込んでお尻や太腿を撫でていました。


「ですから、今日はちょっと・・・」


 できないことを早めに言わなくてはと思いました。


「じゃあ、一緒にお風呂に入ろうか。お風呂場だったらいいよね。」


 私は少し動揺して須藤を見返しました。気軽そうに言われたことにも驚きました。


 ふつう、例の期間はしないものと考えていましたが、もしかすると世の中的にはそうとは限らないのかと少々混乱しました。元夫の貴之とは生理の間はしませんでしたが、それでも付き合い始めの頃はお互い我慢できずにバスルームでしたこともありました。ですが欲を抑えきれない若い時代ならともかく、自分の年齢や、まして40歳代後半の須藤がそうまでするのかと怪訝に思いました。


「あの、生理中ですけど・・・」


 念のため、もう一度はっきりと伝えてみました。


「うん、でも一緒にお風呂に入ることはできるよね?最近寒くなって来たし、温かくしたいね。」


 会話がかみ合っていないような気がしました。須藤が本当にお風呂に入りたいだけなのか、バスルームで事に及ぼうとしているのかもわかりかねました。


 月のものが来ている期間はしないというのは、自分の思い込みだったのかと、自信がなくなりつつありました。他の人達はどうなのだろうと素朴な疑問を抱きましたが、そんな事を他人に尋ねることもできません。教えてくれる人がいるとも思えず、確認のしようもありませんでした。


 考えあぐねる私に構わず須藤は唇を重ね、絡みつくようなキスをしました。気付けば服のボタンもはずされ、滑り込んだ手は慣れた風にブラのホックをはずしました。彼の指が自在に私の身体を動き回ると、思わず声を漏らしてしまいました。


 生理の時にするのは嫌だったのに、触れられるとなぜでしょうか、すぐに反応してしまう自分があさましい体質のように思えて情けなくなりました。そんな葛藤すらも最初だけで、須藤の行為に私は溺れ、理性は溶け崩れてゆきました。


「ユリちゃんは好きだよね。週に一度では少なくない?」


 私は立ち膝になっていて、露わにされた胸の先端を舌や唇で弄ばれました。私は返事もできず、不規則に乱れ、はしたなく喘いでいました。


「俺はちょうど良いと思っていたけど、ユリちゃんには足りないよね・・・ユリちゃんを見ると、もっとしなくてはと思うけど・・・」


 感じやすい部分をまさぐられ、須藤の唇が私の身体にふれながら尋ねられても、答えられるものではありませんでした。私の声も、息も乱れるばかりで言葉を返すことができないのに、まるで私ばかりが求めているかのような須藤の口ぶりに納得しかねました。


「先にお風呂にお湯を入れてきた方がいいんじゃない?」


 須藤は動きを中断するとそのように言いました。勝手に始めておいて、しかも途中でお風呂の準備をさせるのに止めるなんて、いつも彼のペースなことに苛立ちました。私は黙って立ち上がると、お風呂場へお湯を入れに行きました。

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