第40話 貢物
「・・・ありがとうございます。私もこれは、良いと思っていましたが・・・」
社員への登用が決まった頃、須藤とスーツを買いに行きましたが、その日は地味な色のものを選びました。仕事で着る服なので、暗く落ち着いた色の方がふさわしいと思ったのですが、須藤は気に入らなかったようでした。
「高価なものなのに、すみません。助かります・・・」
いずれ営業社員として外周りをするならば、何着かあった方が良さそうでした。仕事に慣れて様子がわかったら、明るい色の服を着ても良いかもしれないと思いました。
「こっちはなんでしょう?」
また別の袋があったので開けてみると、バッグが入っていました。ブランド品には詳しくない私でも見たことのある柄のものでした。
「鞄は先日買っていただいたのに、どうしたんですか?こんなに散財してしまって、大丈夫なんですか?」
以前から彼の金銭感覚にはついてゆけませんでしたが、なぜこの人はこんなにあれこれ買ってくるのかと不可解でした。
「そんなに高いものでもないから大丈夫だよ。俺はね、プレゼントをするのが好きなんだよ。前のは仕事用の鞄だから、こっちはお出かけ用だよ。ユリちゃんのいつも持っているバッグ、そろそろ新調した方が良さそうだったから。こういうのが若い女性に人気だと聞いて、お店の人に選んでもらったよ。」
少し困惑しました。確かに自分のバッグは古びていましたが、私はブランド品など欲しいと思ったことはありませんし、興味もありませんでした。上質なものは好きですが、見てすぐにそのメーカーとわかる柄やマークのついたものを持ち歩きたいとは思わないのです。
「・・・とても、有難いのですが、自分らしくない気がしますね・・・こういうものが自分に似合うとは思えないのですが。友達が見たら、不思議がられてしまいそうです・・・」
気持ちは有難かったのですが、自分がこのようなバッグを持つのは不自然だと思いました。
「彼氏からのプレゼントだと言えばいいよ。ユリちゃんは若いんだし、もっとお洒落したらいいのに。」
須藤の言いぐさに違和感を覚えました。須藤が彼氏だなどと、そんな健全な呼び方のできる関係でもないのにと思いました。どちらかと言えばパトロンとでも言った方が似合いそうでした。
「ユリちゃんも少しぐらいは贅沢して、お金のかかりそうな人に見えた方がいい。もっとすごく高嶺の花のようにしていれば、そのへんの若い男は近づけないだろうし。」
須藤からのプレゼントのあれこれには、そんな意図があったのかと少々呆れました。一種のマーキング行為なのだと気付きました。
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