第35話 歓迎会3
結局その後は真矢ちゃんのそばで飲んで過ごしていました。何人かのおじさんも加わって話して過ごしているうちに、お開きの時間になりました。
「桜井さん、二次会も来るよね?今日の主役だからね!」
営業のおじさん達から何度も声をかけられ、断りにくい状況でした。またスナックに行くのだろうか・・・とあまり乗り気にはなれませんでした。
「真矢ちゃんも、行くよね・・・?前田さんも、来ますよね・・・?みんなで行きましょう。」
自分は断れないものの、せめて彼女たちも巻き添えにしたいと思いました。
「もう~ユリさんが行くならしょうがないですね。でもカラオケスナックはなしですよ。チークダンスも却下!」
真矢ちゃんはお酒好きなので二次会も来てくれるはずだと思っていました。その上スナック案をブロックしてくれるとは、非常に頼もしく映りました。
「ちょっと洒落たバーを知っているから、そこにしよう。珍しいウィスキーもたくさん置いているし。」
先ほど少し話した守屋さんが言いました。会社では少々気難しそうな印象でしたが、こういった場では思いがけず気さくなのでした。
「今週はちょっと疲れたので、私は帰ります。真矢ちゃん、桜井さんのこと頼んだよ。」
前田さんは帰ってしまうようでした。彼女は私より年上で結婚もされているので、仕方ないのでしょう。
前田さんと数人のおじさんはお帰りでしたが、法人営業部の大部分の人達は二次会へ参加となりました。須藤もやはり来るようでした。
真矢ちゃんと移動の群れについて歩いていると、須藤が近づいてきました。
「ユリちゃん、大丈夫?飲みすぎてない?けっこう飲んでたんじゃないの?」
須藤に声をかけられると、少し緊張しました。真矢ちゃんに関係を悟られてしまうのではと、神経を使いました。
「実は、真矢ちゃんにさんざん強いのを飲まされていたんです。ここだけの話ですが、彼女から日々パワハラを受けていて・・・」
ここは真矢ちゃんをやり玉にあげるのが得策と思えました。
「もう、ユリさん!被害者づらやめて下さい。それがオヤジをたらし込む手口なんですね?須藤部長も、気を付けた方がいいですよ。彼女、おじさん受けするから、近寄ったら落とされますよ。山村課長はもうダメですね。」
予想通り、真矢ちゃんは応戦してきました。彼女をからかうのが日々の楽しみでもありました。
「ほら、須藤部長。こんな風に、いつも私のことをいじめるんですよ。真矢ちゃんは山村課長が好きで、私がちょっと話しただけでも妬いているみたいなんです。」
真矢ちゃんの言動にかぶせながら、被害者を装うことにしました。本気で喧嘩をするつもりはありませんが、真矢ちゃんとはよく互いにからかい合っていました。
「もう、ユリさん!またそのネタ、いい加減にして下さい。」
真矢ちゃんは予想通りの反応でした。この際ならば、山村課長と真矢ちゃんを噂にして、私自身も加わって三角関係にするのも面白そうだと思いました。もちろん、冗談のつもりでした。
「そうなのかい?山村課長がそんなことになってしまったとは・・・ユリちゃんに、うかつに近づいたら危険なのか・・・気を付けないとね。」
須藤も真矢ちゃんに調子を合わせていました。
「もう、須藤部長、真矢ちゃんのこと信じないで下さいね。彼女、私のことが大好きみたいで、いつも見張られているんです・・・」
それとなく、彼女によく見られていることも改めて伝えたつもりでした。
「でも、ユリちゃんもいつもなんだかんだと、真矢ちゃんと前田さんのところに行ってばかりだよね。本当に仲がいいよね。」
須藤の言葉に、私達が日頃じゃれ合っていたのもばれていたかも知れないと思いました。
「お二人には仕事を教えてもらっているんです。遊びに行っているわけではないんですよ。」
そのように伝えましたが、ちょっと言い訳がましかったかもしれません。
「そうだね。でもユリちゃんも、いずれは外に出てもらうからね。それまでしっかり事務の方も覚えてもらえたら助かるね。」
須藤に釘をさされてしまった気がしました。いまは心地よい環境でしたが、やがては自分も営業として外へ出向かなければならない。心もとないことでしたが、須藤のことは頼りにしていました。彼と良い関係でいられれば、取り組んでゆけるはずだと目論んでいました。
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