第31話 他人のイメージ

「桜井さん、みたらし団子は好き?“みたらし団子を見たらしい・・・”んだって?」


 第二営業チームの席で真矢ちゃん達と書類の不備等をチェックする精査作業をしていると、そばのデスクにいた山村課長に声をかけられました。


 実は私はダジャレが嫌いではなく、つい笑ってしまいました。もちろん自分で言うことはありません。滑る確率が高くリスクを伴います。


「それって初めて聞きました。山村課長が考えられた作品でしょうか?」


 つい言葉を返していると、真矢ちゃんに咎められました。


「もう、ユリさん、反応しちゃダメですって。山村課長、ずっと繰り返し言ってくるんだから。こっちはもう聞き飽きてますよ。相手にしちゃダメ!」


 真矢ちゃんは山村課長に聞こえよがしに言いました。どうやらこの部では彼女はかなり幅をきかせている印象でした。


「真矢ちゃんって、厳しいですね・・・いつもあんなに、いばってるんですか?」


 私は小声で山村課長に尋ねると、彼はしんみりと答えました。


「うん、このおじさんは、いつも怒られてばかりだからね・・・家で怒られ、会社で怒られ、取引先で怒られてね・・・どこでも小さくなって、震えているんだよ。」


 山村課長のフレーズに私は忍び笑いをしました。ルックスも可愛らしい人で、お茶目なおじさんというイメージでした。


「もう、ユリさん!いばってるとか、聞こえてるし。今度は山村課長をたらし込んでいるんですか?あんまり荒らさないで下さい!」


 真矢ちゃんからおかんむりな様子で文句を言われました。


「そんな、人聞きの悪い・・・そっか、真矢ちゃん、妬いてるとか?私と山村課長が話していたら、心穏やかじゃないんだ・・・?山村課長を奪われたくないのか、それとも、山村課長はカモフラージュで、実は私のことが好きってこと・・・?」


 荒らし呼ばわりされた仕返しに、私も意地悪を言ってみました。


「えっ、何それ・・・?前田さん、ちょっとこの人達、どうしたらいいですかね?」


 真矢ちゃんは呆れ顔で前田さんに訴えました。


「実害はないでしょうから、放っておきましょうか。」


 前田さんは冷静にコメントを返しました。


「そうですね・・・しばらく無視しときましょう。」


 真矢ちゃんは冷ややかに片付けようとしました。


「じゃあ、某法人営業部では女子社員の間でいじめが横行していることを相談窓口にメールします。」


 事務的に告げると、真矢ちゃんはぼやきました。


「もう~ユリさん、微妙にリアルなこと言うのやめて下さい。」


「大丈夫。私、本当は真矢ちゃん派だから・・・安心した?」


「なんで私までたらし込もうとしてるんですか・・・油断ならないですね、ほんとに・・・」


 この頃私はおじさんをたらし込むのが得手だというキャラクターにされつつありました。そんな意図はなかったものの、むしろ都合のよいことでした。須藤との関係を悟られないために、誰とでもそれなりに良い関係を築けるに越したことはないのでした。

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