第24話 休憩

 須藤が向かったのは高台にあるホテルでした。良く晴れた午後の日差しのもと、海を見渡せる素晴らしい展望の立地で、ヨーロッパ風の外観にも感銘を受けました。


「眺めが良くて、素敵なところですね。まるで旅行に来たみたいです。小樽だという気がしませんね。」


 須藤は女性の好むようなことをよく知っているように思えました。結婚後も恋愛を重ねていたらしいことを過去にメールで聞いたのを思い出しました。


「小樽や銭函、積丹あたりは食べ物も美味しいし、海と山を見渡せる景色の良いスポットが沢山あるよね。ユリちゃんとどこかに寄れたらと思って調べておいた。」


 なんとなく、須藤は過去に別の女性とここに来たのだろうと感じましたが、私と来るためにわざわざ調べてくれたならば悪い気はしませんでした。とはいえ本当のところは知り得ないことでしたが。


 日頃ホテルに来る機会はありませんでしたが、小樽にこのような洗練されたリゾートがあるとは知りませんでした。建物に足を踏み入れながら、独特の空気感にどきどきしました。


「コーヒーでも飲もうか。」


 須藤に言われるままラウンジへ向かいました。日頃カフェで過ごすのは大好きでしたが、大人びた雰囲気のホテルのバーラウンジなどは行ったことがありませんでした。


 そこは大きな一面の窓があり、海を見渡せる眺めでした。ヨーロピアンクラシック調の豪奢な雰囲気は自分には落ち着かなく感じていました。素敵な空間ではありましたが、自分には敷居の高い気もしましたし、客はほとんどいませんでした。


 スタッフの方に案内され、緊張しながらソファーへ腰を下ろしました。須藤はくつろいだ様子でした。


「素敵なところをご存知なんですね。こういう感じはちょっと、緊張しますが・・・」


 須藤といると、いつも背伸びしている気持ちになりましたが、このような雰囲気の場所にも少しは慣れてきたような気もしました。


「俺も小洒落た所なんてよく行くわけじゃないけど、ユリちゃんと来るなら感じの良さそうなところが良いと思って。」


 以前から気付いてはいましたが、須藤は女性慣れしているようだといつも感じていました。女性の気に入るようなことをさり気なくこなすのは美点でもあるのでしょうが、彼が遊び慣れているようにも見受けられて少々複雑でもありました。


 少し時間が経つと私もくつろいで、しばし談笑していました。須藤の会社での態度や言動については十分に注意するように伝えました。部の女の子たちにもチェックされているという事実を知らせておきました。


「でも、ユリちゃんみたいな人が部下になったら普通は嬉しいよね。それを素知らぬ顔でやり過ごす方が不自然だし、怪しまれそうな気がする。」


 須藤は妙な持論を展開しました。


「俺がセクハラをするのは特権だから良いとして、ユリちゃんが俺に冷たくしていればいいんじゃないの。その方が自然だろうし、疑われなさそうだよ。」


 須藤の言い方は妙に堂々としていて、そんなものだろうかと思ってしまったほどでした。彼は営業キャリアも長いせいか、人を言いくるめることに長けているのかも知れません。自信たっぷりに言われてしまうとうまく反論できませんでした。


 しばらくあれこれと話した後、やがて会話が途切れました。沈黙する間、須藤は私を鋭い視線でとらえました。


「そろそろ行こうか。昼間でも部屋を使えるらしいから。」


 さりげない口調でした。須藤は空になったカップを見つめると立ち上がりました。お茶の支払いを済ませ、ラウンジを後にしました。私にはロビーエリアの椅子で待つように伝え、レセプションへ向かいました。

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