第23話 小樽の街
須藤は車の中で、あれこれと声をかけてきました。自分で運転をしないのは楽だ、などと言いながら上機嫌でした。はじめは余裕がなかったので、私はあまり話すことができませんでしたが、だんだんと会話できるようにもなりました。それでもまだ気を抜けない状態ではありましたが。
目的地が近くなると、須藤の指示したパーキングに車を停め、歩いてお店に向かいました。観光スポットである小樽駅周辺からは少し離れた場所でした。
札幌からドライブや観光へ行くとしても、小樽は魅力的な街でした。結婚するより以前に、元夫の貴之と来たことを思い出しました。互いに学生で、電車で遊びに来たものでした。
駅周辺は小樽運河やオルゴール堂など、徒歩で観光できるスポットが多く、旅行者が交通機関で来ても楽しみやすいエリアでした。旅行気分で歩き回りたい気持ちになりましたが、須藤と一緒ではそのような行動はできませんでした。誰に会うかもわからないので、パーキングからお店に向かうまでの少しの距離でも正直はらはらしていました。
少し歩くとお店に着きました。海鮮丼は市場の中などで食べるイメージもありましたが、そこはカジュアルな雰囲気の独立したお店でした。人気の寿司店が経営しているお店とのことで期待が高まりました。
海鮮丼のお店でメニューを選ぶのは悩ましい時間でした。好きな魚介を数種類に絞られたものにするか、いろいろ組み合わされたものにするか迷いましたが、結局お店の看板メニュー的なものを選びました。好物であるイクラや鮭のほか、ウニ、カニ、ホタテ、光物なの魅力的なネタが網羅されていました。
須藤はイクラ、うに、カニのみの北海丼というメニューを選びましたが、こちらも大変美味しそうでした。
美味しいものを食べるのは楽しい時間でした。地元に住んでいると、旅行する方とは違ってわざわざ海鮮丼を食べる機会はあまりないのですが、良いものだと思いました。
食事を終えると須藤がお会計をするのを当たり前のように眺めていました。ふと我に返り、やはり自分には高価なお店だったのでいかがなものかと頭をよぎりました。私は基本的には質素な生活をしていましたが、須藤といることでいつしか贅沢に慣らされてしまっていると感じました。
食後は車を停めたパーキングへ向かいました。せっかく小樽へ来たので、観光スポットを見て回りたい気もしましたが、須藤と一緒でははばかられました。彼と付き合うことは、今後もそのような制限のあることなのだと思いました。
「この後は、俺が運転するよ。休憩していこう。」
さり気なく須藤は言い、私の手を握りしめました。彼の強い眼差しに、すでに私は捉えられていました。「休憩」という言葉には、本来とは異なるであろう広い意味があるものだと感じました。
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