第22話 土曜日
法人営業部へ異動してから最初の土曜日を迎えました。この日は運転の練習を兼ねつつ須藤と小樽方面へ出向くことになっていました。
この週は異動して新しい仕事を始めたせいもあり疲れ気味でした。ですが土曜日は須藤と会うための日に設定されていましたから、自分の都合で予定を変えようとは思いませんでした。
午前のうちに須藤が迎えに来ることになっていました。彼から着信があり、時間通りに彼の車が自宅の前で待機していました。私が向かうと須藤は車から降りて助手席へ移動し、私に運転するよう促しました。
「おはよう。今日はユリちゃんの運転で小樽まで連れて行ってもらおうかな。」
私は素早く運転席に座りました。誰に見つかると思ったわけではありませんでしたが、やはり人目をはばかるようになっていました。
「おはようございます。いつもありがとうございます。小樽までは距離がありますし、緊張しますけど・・・ナビはして下さるんですか。」
尋ねると、須藤は上機嫌で私を眺めました。
「小樽まではほとんど一直線だから、近くなったらナビをするよ。ユリちゃん、魚介は好きだよね?おすすめの海鮮丼のお店があるからそこで昼食にしよう。」
小樽までの道のりは長く感じられましたが、須藤の提案に気持ちが上がりました。
「それは、魅力的ですね・・・すごく、やる気が出ました。」
つい笑顔になりました。正直この日の朝は外出が億劫な気がしていましたが、小樽でいただく海鮮丼とはさぞかし美味しそうでした。
「俺も、だいぶユリちゃんの好みがわかってきたから。ユリちゃんは好き嫌いが少ないし、食べ物の趣味も合う気がする。」
須藤は得意げな表情を浮かべました。私は食べ物につられてしまう傾向がありました。美味しいものに詳しい人のことは尊敬していました。
さっそく小樽へ向かって車を走らせていると、須藤が笑いました。
「ユリちゃんの運転は俺っぽいよね。ブレーキのタイミングとか。」
彼から運転を教わったわけですから、そうなるのでしょう。ですが自分で運転をするようになると、須藤の運転を怖く感じる時もありました。私は彼よりも安全運転というか、弱気で不慣れでのろのろしたものでした。
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