第20話 打ち合わせ
「いい加減にして下さい。打合せってなんのお話ですか?もしかして何の用事もなかったのでしょうか?」
須藤の持っている資料はただのカモフラージュなのかと疑わしく思い始めていました。
「いや、さすがに俺だってこんなところで何もしないよ。ドアもないし、ユリちゃんのあの声がみんなに筒抜けになるだろうし。」
小声で人を辱めながら、須藤は持っていた資料をテーブルの上に広げました。表紙には「営業支援システムマニュアル」と書かれていました。
「ユリちゃんも、使い方教わってる?これね、まだ不具合もひどくてね。」
この数日、真矢ちゃん達と戦っていた例のアプリケーションでした。
「システム課の方で訂正をかけたり機能の追加をしたり、いろいろやってくれてはいるけど、どうなるものやら・・・それで、みんなでシステム課にエラーの問い合わせをしていたら向こうも人手が足りなくなるから、こちらの部の誰かがきちんとやり方を覚えて、他の社員に教えるようにしてくれと言われてね。」
少し、嫌な予感がしました。
「事務の真矢ちゃんや前田さんも、ルーティンの仕事があって忙しいから、ユリちゃんの方が適任かなと思って。実際の営業に出るまでまだ時間があるから、事務は真矢ちゃん達に任せて、こっちのシステムの方をしっかり学んでもらえるかな。」
事もなげに言われて私は途方にくれました。少なくとも、まともに動くシステムについて学ぶのならともかく、ほとんど未完成の欠陥だらけのシステムの担当にされるとは貧乏くじのように思えました。
ですが、営業社員は基本的に外回りがありますし、真矢ちゃんや前田さんは従来の事務の仕事で手一杯なのでやはり私ぐらいしか手ごろな人員がいないことは理解できました。
「わかりました・・・頑張ります・・・」
渋々でしたが了承しました。
「詳しいことはシステム課の佐倉課長に聞いて、よく教えてもらってね。では、そろそろ戻ろうか。変に疑われると良くないしね。」
須藤は皮肉を言いつつ、さっさと戻ってゆきました。私も少し遅れつつ自分の席へ向かっていると、真矢ちゃんに小声で声をかけられました。
「ユリさん、大丈夫ですか?須藤部長は何だったんですか?変な事されませんでした?」
簡易応接に向かった私達をチェックしていたようでした。
「ああ・・・ある意味、変なこと頼まれちゃったかな・・・これ。」
私は須藤に渡された「営業支援システムマニュアル」を見せました。
「これをマスターして、他の人にも教えるように、って・・・」
日々苦戦中のこのろくでもないシステムの担当に据えられるのは、難儀でした。
「うわ~、それはキツイですね・・・須藤部長、意外と厳しいじゃないですか。」
実際、厄介ごとを押し付けられたような気がしていました。
「うん、そうね・・・でも仕方ないね。私なんて下っ端だし・・・新人だし・・・気は進まないけど、頑張るね・・・システム課に行ってきます。」
やや重い足取りで、私はシステム課へ向かいました。
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