第19話 抵抗

「須藤部長、そういうことはやめて下さい!」


 私は小声で言いながら、彼を睨みつけました。須藤部長も座って下さい、と早口で伝えました。


「ほんのちょっとぐらい、誰も見てないのに。ユリちゃん、会社では厳しいんだね。」


 からかうように言われ、内心憤慨していました。いつどこで、誰に見られるかわかったものではありません。


「須藤部長、こんな風ではすぐに噂になってしまいます。既に、私が異動して須藤部長が浮かれているらしいと噂になっているようですよ。先ほどから、あれこれ私にばかり声をかけられるのも、疑われそうです。」


 先ほどから須藤の態度はいかにもだったので注意せずにはいられませんでした。


「本当に浮かれているから仕方ないけどね。いろいろ教えたいこともあるし、ユリちゃんと話さないわけにはいかないし。」


 平然と言い返され困惑しました。もっと警戒するべきと思いましたが、須藤は妙に堂々としていました。


「そうでしょうが、もう少し周囲からわかりにくくされた方がと思います。あとは、こういう場所でふたりきりになるのも、噂になりやすい気がします・・・」


「メールは読んでくれた?」


 私の忠告にかまわず須藤に尋ねられました。


「読みましたけど・・・なんていうか・・・きわどかったです・・・」


 私は彼の文章を思い出して恥ずかしくなりました。


「ユリちゃん、顔が赤いんじゃない?興奮した?」


 須藤は探るように私を見つめ、欲望にかられた目つきをしました。


「そういう顔をされると、我慢できなくなってくるね・・・」


 愉しげに呟く須藤をにらみ返しました。やはり密室というのは油断ならないものだと思いました。

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