第17話 レイアウト変更
翌日以降も、元の部署の引継ぎと法人営業部の業務を並行してこなす日々が続きました。異動日も次第に近づいてきていました。
営業事務の仕事を教わる際に、外出していた営業社員の机を借りて真矢ちゃんの隣の席を使わせてもらっていましたが、私の異動をひかえて机のレイアウト変更がありました。私のための新しいデスクが、須藤のすぐそばに配置されていました。
いかにもあからさまではと感じ、須藤にメールで伝えました。ですが彼はごく自然な配置だと答えました。須藤は彼の取引先を私に分けるつもりであったし、約半年後に退職を控えた営業社員の隣の席でもありました。退職する方の取引先を私に引継がせる予定もあり、それぞれの担当者に近い方が効率的だということでした。
「須藤部長は舞い上がってるみたいですよ。ユリさんが来るから。」
隣の席で仕事を教わっていた時、真矢ちゃんに言われました。
「うん。前から桜井さんのことお気に入りだったし。デスクも自分のそばにしちゃって張り切ってますよね。桜井さんって優しいから、気を付けた方がいいですよ・・・」
前田さんも同調しました。ありがたい忠告でしたがすでに手遅れでした。私の異動で須藤が浮かれているなどと、すでに噂になりつつあるようで頭の痛くなることでした。
「まあ、須藤部長はおじさんの中ではいい方だと思うけど、ユリさんは無理でしょ。頑張っても相手にされないだろうな~」
真矢ちゃんの言い方に、須藤が少し気の毒に思えました。
「須藤部長には前からお世話になっていたし、親切で良い方だと思うけど。でも結婚されているでしょう。」
ついフォローしてしまいました。
「もうユリさん、隙を見せない方がいいと思いますよ。おじさん達すぐ調子に乗るから。変に期待させちゃったらどうするんですか。」
真矢ちゃんから、釘をさすように言われました。
「私は実は、山村課長がかわいいと思うけど。話していて和むし、結婚するならあんな人がいい気がする。結婚したいタイプかも・・・」
多少、須藤の噂をかく乱させたい気持ちもあってそんな事を言ってしまいました。実際、山村課長については可愛らしいおじさんというイメージを持っていました。
「え、山村課長?ダジャレばっかり言ってるだけじゃないですか。まさかタイプですか?ユリさんに結婚したいなんて言われたら、山村課長、すべてを捨てかねないから、冗談でもそういう事言わない方がいいですよ。」
真矢ちゃんは呆れた風に山村課長をこき下ろしてしまいました。
「そうそう、桜井さんみたいな人にはおじさん達のぼせちゃうから、厳しくした方がいいですよ。飲み会行って、二次会のスナックでチークダンス踊らされますよ。」
前田さんにも忠告を受けたわけでしたが・・・
「それはもう、巡業済みですから・・・そういうものかと思って・・・」
このところの統括部長や須藤との飲み会では、2次会以降はやはりスナックに連れていかれたわけでした。なぜおじさんという人々は一律にスナックやバーと呼ばれる場所が好きなのか、永遠の謎に思われました。
「やっぱり!桜井さん、断らなきゃダメですって。」
前田さんは目を吊り上げ、咎めるような口調でした。
「でも、社長とか統括部長だと断りにくくて・・・誰かと踊ったら、他の人と踊らないわけにもいかないですし・・・」
確かに断っても良かったのかもしれませんが、思いつきもしませんでした。彼らが私を社員に登用してくれたという恩義もありましたから、自分が何かを断れるような立場とは思えませんでした。
どちらかと言えば、あのような場所でカラオケを歌わされる方が私には苦痛でした。ダンス自体も非常に微妙な時間でしたが、我慢できないほどではありませんでした。
「もう~、やっぱりユリさんつけ込まれてた!大丈夫かなぁ?」
真矢ちゃんは心配してくれたようでした。女子社員の先輩や組合に言ったものかと進言してくれましたが、そこまでの問題ではないとなだめなくてはなりませんでした。
「うちの会社って昭和のおじさんばっかりだから、セクハラ率高いですよね~他の会社の子に話したらビックリしてましたよ。そんなのあり得ないって。」
私が過去にいた職場はほぼ女性ばかりだったので、男性のいる会社がどういうものか、よくわかっていませんでした。過去に須藤とのトラブルもあり、ある意味耐性がついていたせいか私の考えるセクハラの感覚は麻痺していたようでした。
「ユリさん、外に行っても大丈夫ですかね・・・?何かあったら言った方がいいですよ?」
「そうね・・・しばらく真矢ちゃんたちの、おじさんのあしらい方を勉強させてもらうね。」
社会に出て学べることは、仕事だけに限らないものだと実感しました。
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