第15話 才能

 翌日の日曜、私は中心部へ出かけたり、初めてのカフェを訪れたり、のんびりと過ごしていました。私は札幌の街が好きでした。須藤には友人に会うと嘘をつきましたが、予定のない休日と言うのは贅沢なものだと感じていました。


 夕方家に戻った後は、自分のお弁当用の惣菜を何種類か作り、冷凍しました。そのようにしておけば朝のお弁当作りは非常に楽でした。ですが営業職になると、社内でお弁当を食べるような時間があるのか、少し心配になりました。


 お風呂に入り夕食を済ませると、パソコンのメールをチェックしました。もしかすると須藤から何か連絡が来ているかもしれないと思っていました。案の定、彼からメールが届いていました。1通のみではなく、何通も届いていました。


 私は届いた時間の早いものからクリックしました。その内容は驚くべきものでした。とても再現して書くことなどできない代物でした。


 あの人は、金曜の晩の私達の情事について細かく書き綴っていました。あの時の私の様子がどのようであったか、彼がどんな行為をしたか等、非常にエロティックで、あまりに卑猥な読み物なのでした。


 そのようなものを読まされ、当然ながら、あの晩のことが思い出されて恥ずかしい気持ちになりました。続けて別のメールを見ると、今度は昨日の私達のそれが綴られていました。あまり長いので数回に区切られているほどでした。


 読んでいるうちに私はすっかり変な気持ちになってしまい、感じないではいられませんでした。


 須藤はこの2日間の出来事を忘れたくないと書いていました。それにしてもなんといやらしい文章を書けたものだと思いました。とはいえ嫌いではありませんでした。彼の書く私の姿は、まばゆいほどに美しく、かつ淫らで愛しいもののように描かれていました。


 彼にとって私はそのように映るのだろうか、といぶかしげに思いました。もしかするとお世辞も入っていたのかもしれませんが、悪い気はしませんでした。


 複雑でしたが、須藤に文才があるのは明らかでした。彼はその日の日曜、会えなかった時間に、こんな猥褻わいせつな文章を書きふけっていたのかと思うと困った人だと思いました。


 悔しいことに、彼の書くものに私は惹きつけられていました。何度も読み返し、私は自分に対して淫らなことをするのを止められませんでした。あの人の特殊な性癖に辟易へきえきする気持ちを持ちながら、私自身もそんな部分が強いのだろうと認めざるを得ませんでした。


 こんなメールになんと返事を書いたものか、悩むところでした。いっそ無視してしまいたいほどでしたが、これほどの分量やエネルギーを費やされたものをスルーしてしまうのも気の毒な気がしました。


とても刺激的な読み物でした。

須藤部長には書く才能がおありのようですが、決して誰にも見られないようにして下さい。


 ごく短い感想のみを書いて返信しました。


 何度も感じてしまったことは、彼を喜ばせてしまいそうでしゃくなので、触れないでおきました。

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