第14話 昼食
話を終えた頃、昼食の時間を遥かに過ぎていました。私はお腹が空いていたことに気付きました。須藤のお土産のケーキを食べたかったのですが、それでは足りない気がしました。
「須藤部長、遅くなりましたが昼食にしませんか。パスタでもいいでしょうか。」
彼は少し驚いたように私を見ました。
「そうか、お腹空いたね。近くに良いお店はあるかな・・・」
「誰に会うかもわかりませんからお店は行かない方がいいと思います。遠い場所なら良いかもしれませんが、もうお腹がすいていますし。スパゲッティを作りますから、トマトソースか、きのこのクリームソースか、和風のどれが良いですか?」
私は冷蔵庫の中身を見ながら彼に尋ねました。鍋に水を入れ、塩を入れて火にかけました。
「ユリちゃんが作るの?なんか、悪いね・・・じゃあ、きのこのクリームにしようかな・・・?」
須藤は少しそわそわした様子で、嬉しそうに言いました。彼の顔が輝いたのを嬉しく思いました。パスタは好物なので、頻繁に作っていました。
お気に入りの音楽をかけながら準備をしました。家にいる時はいつも音楽をかけていました。古い洋楽や古い洋画のサントラなどが好きでした。
食事ができるまで退屈するだろうと思い彼に何冊かの雑誌を渡しました。ですが須藤のような年代の男性が読みそうなものは持っていませんでした。インテリア雑誌や、料理の本ぐらいしかありませんでした。
「ユリちゃんの家はカフェみたいだね。こんな風に、急に来れるとは思わなかった。」
須藤は案外嬉しそうに、インテリアの雑誌を眺めていました。
パスタの出来は悪くありませんでしたが、お皿が不揃いだったのが気になりました。揃いのカップやお皿があった方が良いかもしれないと思いました。
引っ越して以来、男性を家に呼んだのは初めてでした。もう男の人と付き合うつもりはなかったので、奇妙な時間でした。
「ユリちゃんのスパゲッティ、すごく美味しいよ。料理が上手なんだね。」
いつも高級なお店で食事をする彼が、私の作ったものを褒めてくれるのは嬉しくなりました。ふだん手の込んだ料理はほとんどせず、パスタはお手軽な部類でしたが、褒めてくれたことは素直に嬉しく思いました。次はもう少し、きちんとした料理にしてあげたいと思いました。
デザートに須藤の買ってきてくれたフルーツとケーキを頂きました。フルーツは今まで見たことはあったものの、食べたことのない高級なマスカットでした。果物やケーキは贅沢品で、日頃自分では買いませんでした。彼に財力のあることは良いことだ、と実感しました。
空腹が満たされると、須藤といろいろな話をしました。会社や仕事の話が多かったのですが、他の話題もありました。
須藤は話すのが好きな人でした。面倒見も良く、周囲からも慕われているようでした。強引なところもありますが、余裕があって頼れるところは好ましくも映りました。
「ユリちゃん、明日の予定はあるのかな・・・小樽方面に行くのはどう?魚介が美味しいし、運転の練習をすることもできるけど。」
しばらくして、やや遠慮がちに須藤は尋ねました。
翌日の予定はありませんでした。連日彼に会うことは嫌ではありませんでした。ですが私達が会うのは週1回にとどめるべきだと考えました。
「せっかくなのですが、明日は友達と約束があるんです。次の土曜日でしたら・・・運転の練習もしたいですし、お食事にも行きたいです。」
「わかったよ。明日はユリちゃんに会えないのか。淋しいな・・・耐えられないかもしれない。」
ふざけていたのか、本気なのかはわかりませんが、つまらなそうに須藤は言いました。
「また月曜日、会社で会えるじゃありませんか。私も次の土曜日を楽しみにしますね。」
「会社だと、ユリちゃんに触れないじゃないか。我慢できるかな・・・」
まるで本気な風に須藤は呟きました。自分が相手を想う以上に好かれることは優位で楽なことでした。
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