第10話 塗り替えられた過去

 繰り返し波うって震える私を須藤は心地よさげに眺めていました。ますます感じやすくなってしまった身体をさらにいたぶり愉しみながら、ユリちゃんは早いね、と小さく呟きました。


 早くつながりたくなってしまい、彼の股間に手を伸ばしました。須藤はその手を抑えながら再び私の唇を吸いました。


 今日はゆっくりしたいから、と須藤は微笑みました。スカートを捲り上げ下着を下ろすと、私の恥ずかしい部分を見つめました。一度達して我に返った私は、足を閉じて彼の視線を妨げました。


 彼の指はかまわずそこへ押し入りもてあそびました。淫らな液体と指のまみれる音が響き、再び耐え難い感覚に襲われ呻きました。


 その日の須藤は言葉通りの執拗さで、私は何度も昇りつめては濡れました。この人に太刀打ちなどできなかったのだ、と悟りました。この人は最初から私の闇を見抜いていて、抗うことなど不可能だったに違いない。そう思い知らされていました。


 さんざん濡らされたあとで、須藤はようやく私の中へ入りました。シンクに手をつき背を向けさせられ、屈んだ私に後ろから彼はつながりました。長く預けられやっと与えられた悦びに我を失って叫びました。


 須藤はいくつかの体勢で私を味わい、私の声はしだいに大きくなりました。彼が私を打ち付ける音が部屋中に響きました。前夜よりもさらに執拗で長い交わりになりました。


 ことが終わり、私達は魂が抜けたようになりました。キッチンの前で互いに座り込んでいました。


「ユリちゃんには、男がいなくちゃいけないと思っていた。」


 ややしばらくして、須藤がぽつりと言いました。


「もう結婚をするつもりはないとか言いながら、すぐに人を信じてしまうし見ていて危うい気がした。ちゃんとユリちゃんを満たして守れる男が必要だと思った。」


 須藤はまるで、自分がその男なのだと言わんばかりでした。


 ですが彼の言う事は的外れではありませんでした。貴之と別れ、男性不信になった私は、性的に求められていなかったことで女としての自信をひどく失っていました。身体が欲に疼いても、たやすく男性と寝ることなどできませんでした。


 初め須藤が強引に私を奪ったとするなら、そこまでする人でない限り、私は再び男性と体を交わすことはなかったでしょう。須藤だけが、私の闇にたどり着きました。


 ひどく須藤を憎みましたが、その気持ちを持ち続けることはできませんでした。私は彼の善意を見つけようとしました。私を好きでいてくれるなら、許す余地があることを認めようとしました。憎み続けることは、同じだけ自分を傷つけむしばみ続けることだと、経験からわかっていたのです。


 須藤を好きになれるならば、憎しみから解放されるとどこかで思っていました。あの時自分は無残に犯されたのではないことにできました。須藤に惹かれ、抱かれることは、あの日の自分を救い出すことでした。


 私は彼の女になることで、かつて犯されたという過去の改ざんを成し遂げました。

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