第8話 須藤の来宅
玄関のドアを開けると、須藤はやや改まったような様子で立っていました。手にいくつかの袋を下げていました。
狭いですけど、どうぞ、と中に入るよう促しました。
「なんか、悪いね・・・急にお邪魔しちゃって。」
どことなく照れた風に、須藤は言いました。
「ユリちゃんの部屋、こういう感じなんだ・・・とても素敵だね。」
部屋を見渡しながら、感銘を受けたように彼は呟きました。
「これ、近くにあった店で、味はよくわからないけど。」
須藤は買い物をしてきたようでした。箱の入った袋を差し出され、中を覗くと数種類のケーキが並んでいました。別の袋には、何種類かのフルーツがありました。
「わざわざ買ってきてくれたんですか。かえってすみません。」
彼は近くを歩き回って、お土産を探してくれたのかと思うと温かい気持ちになりました。
「ユリちゃん、着替えたんだね。スーツは窮屈だった?いつものユリちゃんだね。」
須藤が私を眺めて言いました。着替えたことを指摘されると、少し恥ずかしい気持ちになりました。
「まだ、あまり着なれないので・・・変な感じだったんです。服に着られているような。」
「スーツもよく似合ってたよ。大人びて、セクシーに見えた。でも、いつものユリちゃんも可愛い。」
そのように言われ、また恥ずかしくなって目を伏せました。褒めてくれるのは嬉しかったのですが、いまだに慣れませんでした。小さな声でお礼を言いました。
「須藤部長、お茶はいかがですか。コーヒーか、紅茶か、ハーブティーもあります。コーヒーはインスタントですけど。頂いたケーキ、ご馳走になりますね。」
私は食器棚からカップを2つ出しました。揃いのものはなく、別々のカップでした。
「コーヒーをいただこうかな。」
そう須藤は答え、私は再びやかんを火にかけようとキッチンへ行きました。インスタントコーヒーの入った瓶を取り出し、カップに粉を入れました。
ケーキをのせるお皿とフォークを準備していたら、ソファに座っていたはずの須藤がそばにいて、ガスの火を止めました。彼は素早く私を抱き寄せると、キスを浴びせました。
「コーヒーはあとでいただくよ。」
熱っぽい表情で彼は告げ、ごく当然のように私の身体に触れ始めました。私は後ずさりしましたが、すぐにキッチンのシンクにぶつかってしまいました。
「お話したいことがあるんです。」
かろうじて伝えましたが、私の唇はふたたび彼の唇によって塞がれました。
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