情けは人の為ならず

陽月

情けは人の為ならず

 今日は友人の結婚式の二次会。

 余興の一つとして、ビンゴが催されている。ビンゴカードは昔ながらの紙のカードだが、番号の抽選はコンピュータだ。パソコンに入れたソフトで抽選し、プロジェクターで結果がスクリーンに表示される。既に出た番号も自動で記録されていく。


「他にビンゴの方はいませんか?」

 司会者が会場を見回す。

「では、次に行きます」

 スクリーンにカラフルなボールが表示され、グルグルと回っている。ちょっとした演出だ。

 一つだけ残ったボールに表示されていた番号は、32。

「32番です」

 司会者の声など関係なく、各自、自分のカードを確認している。


「あっ、ビンゴ」

 優子ゆうこは、前に出て、司会者の確認を受けると、新郎から景品を受け取り、席へと戻る。

「ユッコ、この前のあっちゃんの時もビンゴ当たってなかった?」

 隣の席の友人、瑞希みずきが、リーチが一つだけの自分のカードをパタパタさせながら、尋ねてきた。

「あっちゃんのときも、貰ったね」

「ユッコ、なんかよく当ててるよね」

 こちらは、今回はゲスト参加のあっちゃんこと篤子あつこである。


「うーん、情けは人の為ならずの精神で、コツコツ徳を貯めてるから、こういう時に返ってくるんだよ、きっと」

「おっ、『情けは人の為ならず』を本来の意味で使ってるね」

「でしょ〜」

 分かっている優子と瑞希、対して篤子はピンときていないようである。

「本来の意味って?」

「他人にいいことをしておけば、そのうち巡り巡って、自分にいいことが返ってくるって意味なんだよ。人の為じゃなく、自分の為にやりなさいって」

「そうそう、助けたらその人の為にならないから、手を出すなって意味だと思っている人も多いけどね」

「なるほど。で、ユッコは具体的に何をしてるわけ?」


 大したことはしてないよと、断りを入れ、優子は例を挙げる。

 沢山の荷物や重い荷物を運んでいる人を見かけたら、扉を支える。

 もう一本手があれば作業が楽に進みそうだな、そういう場面に出会えば手を貸す。

 エレベーターで少し離れて向かっている人がいれば、確認して待つ。

 目の前で落とし物をした人がいれば、拾って追いかける。

 どれもこれも、ちょっとしたことだ。


「他にビンゴの方はいませんか?」

 司会者の声が響く。景品の受け渡しが、一段落したようだ。

「残りの景品も少なくなりました。次で最後でしょうか」

 最後かもしれない番号の抽選が始まった。

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情けは人の為ならず 陽月 @luceri

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