さいわいなことり
大福がちゃ丸。
小さな部屋
この部屋に居るのは、私と籠の中に居る小鳥だけ。
大きなベットで、一日中横になり、たまに体を起こすくらいしかない。
窓でもあれば、外の景色でも眺めていられるのに。
布団の上や床に、何度も見た絵本が散らばっている。
塔の中に閉じ込められたお姫様が幸せになる本、悪い魔女が出て来て退治される本、勇敢な騎士が出て来て竜と闘う本、そして。
「幸せの青い鳥……」
籠の中で、おとなしく寝ている小鳥を見て、私はつぶやく。
「あぁ、窓があれば、あなただけでも外の世界に行けるのに」
この鳥籠のような部屋から出られない私の代わりに、あなただけでも外の世界に飛んでいけたのに。
私の世界は、この小さな部屋の中だけなのだ。
外に出てみたい。
外の世界を見てみたい。
こんな気持ちになったのは、初めてかもしれない。
そうだ、お父さまにに話してみよう、少しだけなら許してくれるかもしれない。
もうすぐ食事を持って、お父さまが部屋に来る頃だ。
私は、ベッドの端に座るように腰を下ろして、お父さまの来るのを待った。
おかしい、いつもならお父さまが来る頃なのに、あの鍵で閉じられたドアを開けて来てくれる頃なのに、おかしい、おかしい。
時間が過ぎて行く。
一つ目のドアが開く音がする、お父さまだ。
不規則な音がする、いつもよりゆっくりと。
そして、この部屋のドアが開いていく。
光の無い部屋の中に、ドアからの明かりが差し込み、まぶしくて目を細める。
「?! お父さま?!」
お父さまは、お腹を赤くして、荒い息をして、部屋に入ると倒れてしまった。
こんなことは初めてだ、おろおろとして涙を流し、お父さまのところに向かうと、お父さまは小さな震える声で。
「すまない 逃げてくれ 愛おし にげ」
動かなくなっていく、冷たくなっていく。
お父さまの手を握り、私はしばらく涙を流し、その場にうずくまる。
あぁ、いけない、お父さまは「逃げろと」言っていた、お父さまは、冷たくなり動かなくなってしまった。
お父さまが、持ってきた明かりは置いていこう、明かりが無いのはかわいそうだ。
私は、鳥籠を持ちこの部屋を出る、初めてこの部屋を出るのでドキドキと胸が高鳴る。
ドアから出ると階段、初めて見る。
もう一度振り向いてお父さまを見る、涙があふれそうになるが、我慢をして階段に向かう。
手を付きながら上って行く。
カリカリと爪が当たり、軽い音を立てる。
階段の上のドアは開かれていて、薄明かりが中に差し込んでいる。
顔を出して、外をうかがうと廊下に線を引いたように血が付いている、お父さまのだろう。
そちらの方に向かうと、明かりがついていて、大きなドアがあって、同じ服を着た人が二人血の中に倒れている。
明かりが眩しい、私は目を細めドアノブに手をかけ、ゆっくり開けていく。
始めた見る外の世界は暗かった、空は厚い雲に覆われ、星も月もその輝きを見せていない、まるで見てはいけない物を隠すように。
外には赤と青のランプを付けた車が止まっている、あの人たちの物だろうか?
初めて見るものばかりでドキドキする。
家は小さな丘に建っていたらしい。
遠くに家の明かりらしいものがちらほら見える、それに、こちらに向ってくる赤と青の光、あの人たちの仲間が来るのだろう。
「星を見たかったな」
つぶやいて、一歩踏み出すと、夜のひんやりとした風にふわりと髪が流される。
「風」
手にもって来た鳥籠の蓋を開け、手を中に入れ、握りつぶさないように小鳥を掴み外に出す。
爪の先で、ふわふわとした羽毛をそっと撫でてみる。
「さようなら、小鳥さん」
そっと手を広げると、大きく羽をはばたかせ飛んでいく、あっと言う間に闇夜に溶けるように見えなくなった。
私は、それを見届けると、湿った地面に足を踏み出す。
固い大きな爪が、土をえぐり音を立てる、歩いていくうちに夜の黒は深くなり闇は広さを増していく、私の目はその深い闇を見通し進んでいく。
うるさい音が近づいて来ている
家の方に振り返えると、背中の被膜が付いた翼を大きく広げ、二・三度大きく動かし、広く固い嘴を広げ一度深呼吸をする。
「さようなら、お父さま」
小声でつぶやくと、大きく羽ばたき闇の中に飛んで行った。
******
翌日、小さな田舎町は喧騒に包まれる。
町はずれの一軒家で、殺人事件があったからだ。
殺されたのは警官二名、最近頻発している子供の失踪事件、あくまでその聞き込みで立ち寄ったのだが、そこで死亡したのだ。
犯人の男も、警官に撃たれ死亡している。
その家には、妻が亡くなった後、正気を失った夫が住んでいた。
人付き合いは無くなり、陰口を叩く者も居たがそれだけの事だった。
あまりに連絡がないので、駆け付けた他の警官に発見・連絡され、家は調査された。
無数の人骨(後にすべて失踪者だと判明)が発見され、男の持ち物であろう物は魔術や神秘学に関するものが多くあり、得体のしれない物も数多く見つかった。
男の日記からは、『亡くした妻を蘇らす』目的として、若い魂と肉を集めていた事と、『魂を戻したことによる記憶の喪失』『相容れぬ肉に魂を移したため変化してしまった』ことが書いてあった。
そして。
男の妻が亡くなった後、一人で暮らしていたはずの家には地下室があり、男以外に誰か居住者が居た痕跡が残っていた。
さいわいなことり 大福がちゃ丸。 @gatyamaru
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます