第二十話 ……ない。
そんなこともあったけど、今度は天使さんから、
「やっと
それはね、魔法少女の変身は二段階あるからなの。まず『セットアップ』で生まれたての天使さんになってから、『マジカルチェンジ』で魔法少女になるの。……なるほど。だから『マジカルチェンジ・セットアップ』という
くるくると、マジカルステッキを回していた日々が頭の中を過って、
「良かったね、
と、この子が喜んでくれるの。
「うん!」
だから今ね、白いキャップはお預けだけど、水着を着ている。それは
「ねえ君、瑞希ね、何もついてないの。お兄ちゃんみたいに、ええっと……あっ、そうそう、『
「象さんのお鼻?」と、この子は復唱すると、ぷっと笑った。
「それはね、瑞希ちゃんが女の子だからだよ」
「だからね、はだかんぼじゃ
「駄目だったら駄目! 何回言ったらわかるの? 瑞希ちゃんが走り回るから、水着を着せてあげるの大変だったんだよ。それからね、
というわけで、この子はふくれ面になっちゃった。
でも何か
「もう、僕よりお姉ちゃんなんだから、ちゃんとしてよ」
「はいはい」
「『はい』は一回!」
と言われながらも、にっこりしたまま。我ながら『反省の色がまったくない』という言葉がピッタリ。パパにだって言われていたことなのに、全然なの。
それからね、さっき
「かっこいいね、ヒロ君が作ったロボット」
「戦隊ものみたいでしょ。三つのマシーンが合体して、このロボットになるんだ。お家にね、
という具合に、さっきまでのふくれ面が、また笑顔に
「うん、男の子と女の子の約束だね」
もっともっとお
「じゃあ、今度は瑞希ちゃんの番だよ」
「うん!」
きっとわたしは変わっている。周りの子はもっとそう思っている。はだかんぼで走り回ったらヒロ君が追いかけてきて水着を着せてくれた。キャップはまだ手に持ったままだけど、
でもね、ここからはいつも通りなの。わたしの上と下、全部の名前が書いてある白いプレートの前に立って、その後ろを見たら、
「……ない」
確かに昨日まではそこにあった。お空に
「僕、探してみる」
ヒロ君がそう言ってくれた。
……でも、探すと言っても、ヒロ君はそのセーターを知らない。それでも、
「ねえ、二年生の瑞希ちゃんのセーター知らない?」
と、この体育館中にいるみんなに
「知らない」
と、どの子も、聞こえてくるのは同じ返事だった。
真夏の
あの日、夏休みの終わりの日に、セーターを見て喜んでいたお兄ちゃんの優しい笑顔が
するとね、また足音が聞こえた。段々と音が大きくなって、
「瑞希ちゃん!」
と、足音に負けない大きな声で、わたしを呼ぶ声も聞こえたの。
「えっ?」
と、びっくりして
「先生連れて来たよ」
と、ヒロ君が、はあはあと息を切らしながら走って来たの。そして、わたしと同じような
智美先生は、いつもと変わらない優しい顔で、
「どうしたの? 瑞希さん」
と、声をかけてくれたの。
びっくりして、
「瑞希のセーター、なくなっちゃった」
さっきよりも大きな泣き声になっちゃったの。
「あっ、瑞希ちゃん、僕また探してあげるから」
と、ヒロ君は言ってくれたけど、
「先生もね、一緒に探してあげるから、ねっ、泣き止んでプール行こっ」
って、智美先生も言ってくれたけど、
「やだやだ! そんなのやだあ!」
まるであの日、パパと一緒に
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