第二十一話 これって、パラレルワールド?
二回目のチャイムが鳴り、中休みも終わって……
そこにはもう、クラスのみんなが集まっていた。男の子はみんなブルマ? みたいな
「
「あんなに泣いちゃって、何か
「きっと先生に、ものすごく
ひそひそと、女の子の
ここに着くちょっと前、シャワーが
「じゃあ、あれだ。あいつ、さっき教室にいなかっただろ?」
と、今度は男の子の声が聞こえて、
「うん」と女の子が返事。
「夏休みのプールの日、体育館で
「あっ、それ知ってる。じゃあ、こうだな。あいつまた裸で走り回って、とうとう先生に怒られて、水着を着せられたってとこだな」
とまで言ったの。それでさらに女の子が、
「ええっ、女の子なのに? 信じられない」
「怒られて当然ね。ほんと
という感じで、
「先生から、みんなにお願いがあるの。今ね、体育館にみんなの自由研究を展示してるけど、瑞希さんのセーターがなくなったの。そのセーターはね、お父さんがお亡くなりになってから、いつも
前後左右きっちり並んでいるみんなを前にして、そう智美先生が言ってくれたの。その
「は~い!」
って、返事してくれた。
すると、わたしと向かい合わせの女の子が、
「瑞希さん、もう泣かないで」
で、その横にいる女の子も、
「そうよ、元気出そっ、わたしたちもセーター探してあげるから」
「うん、ありがとっ」
さらに男の子まで、
「瑞希、昨日は笑ったりしてごめんな」
「えっ、何のこと?」
「お前なあ、泣いて教室飛び出したのに忘れたのか? おねしょのことだよ。うまく言えないけどよ、とにかく俺、お前のこと見なおしたんだ」
う~んとね、やっぱり何のこっちゃ。
それから、もう一人の男の子も、
「まあ、そういうこと。せっかく晴れてプール中止にならなかったんだから、思いっ切り楽しもうよ。良かったら、その後の
「う、うん……」
この子たちは、さっきまでひそひそと、わたしのことを話していたの。それは多分、わたしの悪口なの。ちらっと見上げたら、智美先生はにっこり笑っていて、
「瑞希さん、いっぱいお友達できたね」
「えっ?」
「
「うん!」
まだ涙で
準備体操が終わって、ぽんぽん背中を
「はいビート板」
と、
「それから少し後ろね」
って、
「じゃあね、瑞希さん」
って、どん! と勢いよく、聡子さんが押した時には、わたしの両足はプールサイドの
プールの水はお
「……たい焼き食べたい」
って、声が聞こえたの。
その声は、どうも外からではなくて内側から
「やだ、瑞希さんたら」
って、聡子さんが笑うの。
えっ、えっ? と、きょろきょろしていたら、ここにいるみんなが笑って、黒板の前にいる智美先生まで笑っちゃったの。
あれれ? みんな水着ではなくてお洋服を着ている。机の上には教科書もだけどノートまで開いて、まるでここ教室みたいで……って、ううん、やっぱり教室。
それにもう……やだ、お勉強の時間じゃない!
ちらっと聡子さんを見ると、
「だって瑞希さん、給食を食べ終わると、すぐ寝ちゃうんだもん。お勉強の時間が始まるから起こそうとしたのよ。でも、『……たい焼き食べたい』って言うだけで、ぜんぜん起きないんだもん」
と、隣の席から……というか、聡子さんはわたしの隣の席に座っている子で、さっきまで夢を見ていたみたいで、少し
「瑞希さん、たい焼きは少しお預けね」
と、智美先生が言った。
それで、やっぱり怒られちゃうと思っていたら、
「元気出して。他の先生たちも瑞希さんのセーター探してくれてるから、国語の教科書を出して、六十七ページの三行目から、大きな声で読んでみようね」
「うん!」
夢ではなかったの。
わたしが自由研究で編んだセーターはなくなっていた。中休みにヒロ君と出会えたことも、その後のプールでの出来事も、みんな本当にあったことなの。そう思うと、とっても
「瑞希さん、教科書さかさまよ」
と、聡子さんのツッコミもお約束みたいだけど、わたしは別にボケを
さらに智美先生が、
「瑞希さん、面白い」
と、笑っちゃって、その一声で、また他の子まで笑っちゃって……まあ、気を取り直して『二年一組は笑いの絶えない明るいクラス』と、他のクラスの先生や児童から高い評価を受けることだろう。それに
「あ、あの瑞希さん? ゆっくりで大丈夫だから」
「あっ、ごめんなさい」
そうなの。張り切りすぎて、
前にね、パパが言っていたの。
「瑞希は本を読むのが速いから、手を上げて先生に当てられた時は、ゆっくりと大きな声で、みんながわかるように読むんだぞ」って。
そんなこともあったけど、今日のお勉強の時間が終わった。
わたしは黄色い
なくなったセーターと、お兄ちゃんの顔が
『瑞希ちゃん、仲直りしないとね』
『あの子もお誕生日会に
と、その声たちも頭の中を過るの。
教室に
ほんとごめんね。という気持ちがお腹の底から
聡子さん、まだ教室にいるかな?
そんな思いが頭の中いっぱいに広がって、わたしは
まだ女の子が一人残っていた。わたしはドアに近い一番前の席にランドセルと、その上に帽子を置いてから近づいて行った。わたしの隣の席に、その女の子はいた。
「み、瑞希さん」
わたしを見ながら、その女の子の手が止まった。
「聡子さん、どうして?」
と、その女の子の名前を言うわたしの声と、針を刻んでいく時計の音が、はっきり
「ち、
聡子さんの両手には、わたしが編んだあの七色のセーターがしっかり
「どう違うの? それ、瑞希のセーターじゃない!」
それに、そのセーターは体育館でなくなったものだ。そのセーターをぎゅっと
でも、わたしは、
「返してよ!」
と、
「こんなもの!」
と、セーターを
ぱちーん!
と、その音だけではなく、大きな物音まで、この教室に響いた。
わたしは、聡子さんのほっぺたを思いっ切り
「何するのよ!」
と、聡子さんは涙目でわたしを
「ひどいよ……」
セーターは
「瑞希さんが、悪いんだから……」
と、泣き声で聡子さんが言った。わたしはキッと睨んだ。
「何が悪いの? 瑞希ね、聡子さんと仲直りして、お兄ちゃんのお誕生日会に誘ってあげようと思ってたんだよ。……ねえ、何でなの?」
「大っ
「瑞希だって大っ嫌いだよ! 聡子さんこそ何もわかってないじゃない。いつも瑞希に意地悪ばっかりして。瑞希がね、どんな気持ちでこのセーター編んだと思ってるの?」
「もう、
今度は聡子さんが、わたしを
「何するの!」「何するのよ!」
で、繰り返される大きな音。ぶつかって机が動く音。
「やめなさい!」
と、その大きな声も……えっ?
取っ組み合いの
「瑞希さん、ちゃんと先生の顔を見なさい」
見たら、智美先生の顔が、まるでママが
「どうして喧嘩したの?」
「聡子さんが、瑞希のセーターを
智美先生の顔が怖かったのもあったけど……わたしも、ぐすっと泣き出した。
「聡子さん、どうしてそんなことをしたの?」
「瑞希さんが、『お兄ちゃんお兄ちゃん』って、
泣いちゃったけど、それ以上に、わたしはまた怒った。
「瑞希ね、お兄ちゃん大好きなんだよ! このセーターはね、瑞希がお兄ちゃんのために心を込めて編んだ大切なものなんだよ!」
「だから、自慢するなって言ってるじゃないの!」
キーッとなって、わたしはまた聡子さんのほっぺたを叩いた。
「瑞希さん、いい加減にしなさい!」
と、智美先生が
何で怒られるの?
「瑞希ね、悪くないんだよ……」
悲しくて、ぎゅっと汚れて解れたセーターを抱きしめて、
「智美先生なんて大っ嫌いだ!」
大きな声で、泣きながら教室を飛び出した。
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