第二十三話 証言する者、ついに現れる。
「あの……」
その声が、また景色を変えた。
木製机に置いてあるわたしと同じ名前の女の子が
「
と、海里さんは続けて
でも、わたしには、海里さんの言っている意味がわからなくて、
「山田は、中学の時からの
と答えた。
山田と出会ったのは、中学の入学式だった。
でも海里さんは、あのクイズ番組の「ファイナルアンサー?」って訊いてきそうな司会者みたいに、じっとわたしを見ている。ほんのわずかな時間だと思うけど、
「でも、
と、海里さんが言ったことで、わたしはハッとなった。
確か、山田の下の名前は『聡子』
まだ
そして日記帳に綴られている『聡子さん』は、お父さんが連れて行ったので、結婚していなければ、この子の名字も『山田』ということになる。
……まさかね。
少し変な
そのチャイムを押しているのは誰か、すぐに想像できた。その人物はきっと、わたしが玄関のドアを開けるまでチャイムを
「は~い、今でますよ」
それに、今は生徒の前だ。この部屋の
やっぱりだ。
「よお、久しぶり。元気にしてたか?」
昔からそうだった。男みたいな
「とか何とか言って、
つい言ってみたくなった。
「おいおい、何ニヤニヤしてるんだよ?」
「あっ、失礼ね。こんな
「ねえ。って、意味わかって言ってるのか? もうすぐ一児のママになる三十手前のおばさんが、ぶりっこしても似合わないぞ。それにな、念のために言っとくけど、あたしは女だ。『女同士がラブシーン』っておかしいだろ? 別のドラマになっちまう」
「あのね、さりげなく四捨五入しないでよね。まだ
「そう言ってられるのも、あと何日かな? もうすぐ誕生日なんだろ。二十五を
はあ? という感じだった。
それに、山田は顔を赤くして、わたしから少し目を
「相変わらず変な
とは言ったものの、はて? 山田はわたしに何を期待していたのだろう? と、それも気になるところだけど、それ以上に気になっていたこともあって、……ええっと、それが何だったのか思い出そうとしていたら、くすくすと笑い声が聞えた。
「二人とも、似た者同士だね」
と、玄関からすぐのわたしの部屋、海里さんが襖から顔を半分だけ出していた。それが昔のスポ根アニメの『木の陰から主人公を見守るお姉さん』みたいで、あまりにも
「まあ、せっかくだから中に入りなよ」
「まあ、せっかくだから、お
と言いながら、山田も同じように笑っていた。
と、まあ、そんなこともあって部屋に入ると、木製机を
いつもは
「リンダさん、お
そして頭も下げた。
「山田さん、お久しぶりです。先日は色々とお世話になりました」
と、海里さんまで正座で、頭も下げて、礼儀正しく
本当に、珍しいことだ。……と、思っていたら、
「なんてね。お譲ちゃん、
「それもそうね」
山田の一言をきっかけに、海里さんがコロッと変わっちゃった。
「まあ、この子ったら……」
と言いながらも、くすっと笑って、「山田さん、お元気そうですね」
「はい、おかげさまで。リンダさんも、お元気そうで何よりです」
と、まあ、こんな具合に、人には硬いと言っておきながら自分も硬い。いかにも山田らしい挨拶だ。もちろん山田は、リンダさんと海里さんとは面識がある。去年の八月二十四日のふるさと祭りのイベントで、わたしが演劇部の担当になって一般の方も
それにしても、海里さんたち生徒を
そう思っていたら、
「ところで瑞希、リンダさんたちと何してるんだ?」
と、そんなことも忘れているように、山田が訊いてきた。
「前にリンダさんが新作を書くって、話したことあったでしょ?」
と、答えるわたしも、山田と同じだ……。
「ああ。瑞希が劇のエンディングのナレーションでバッチリ決めたやつだな」
「それで、その新作の主人公のモデルをリンダさんに頼まれたから、今こうしてインタビュー受けてるってわけなの」
と、言ったものの、引っかかっている問題は何も解決していなかった。このまま進めていいのかさえ、疑問に思えてきた。でも、それに気づく人はいなくて、
「へえ、瑞希がね……」
と、
「あっ!」
と、いう大きな声が、わたしの耳元で響いた。
「ど、どうしたの?」
「どうしたもこうしたも、お前が持ってるそれ、あの
と、山田が言い終えた時には、木製机の上の日記帳が消えていた。あれ? と思っていたら、山田が両手で持っていて、さっきまで開いていたはずなのに閉じられて、その表紙を見る山田の表情が、えっ、そうなの? って思わせた。
それを知っているということは、山田はこのアニメが大好きで、きっと映画館で劇場版を見て泣いちゃった女の子たちの一人に
「……わからないの。その日記帳が、わたしのかどうか」
「えっ? だってこれ、『瑞希』って大きく名前が書いてあるじゃないか」
そう。山田の言う通り、名前だけならわかる。
「でも、名字がわからない。『瑞希』って名前は、わたしだけじゃない。卒業アルバムでも同じ名前の子が三人もいた。……去年の文化祭の日、学校の中庭で演劇部のみんなが集まってタイムカプセルを
「ああ。確かその時、お嬢ちゃんが
と、山田は、ちらっと海里さんを見た。
「うん。とっても
海里さんの言う玉手箱こそ、今ここにある玉手箱。黒くて
「その玉手箱の持ち主が、もしかしたら……」
頭の整理ができなくて、誰に言うわけでもなく
「それ、
「えっ?」
……お金持ちの子。そう思いかけたけど、この日記帳に綴られている瑞希という女の子は、どう読んでもお金持ちの子ではない。普通の子よりも
くしゃくしゃと、両手で
「なるほど……」
と、山田の呟きが聞えた。
じっと表紙を見ていたはずの山田が、ぺらぺら日記帳を
「瑞希、どこからなんだ?」
「えっ?」
「リンダさんに、どこまで話したんだ?」
「あっ、ええっと、聡子さんと
と、答えた。
先に訊けよ。と思うところだけど、それが山田らしくて、
「あっ、今『くすっ』て笑ったな?」
「あっ、うん……」
「上等だ。ちょうど魔法少女の話だな。あたしが話してやるよ」
その山田の一言に、わたしはこくりと
「証言する者、現れるだね、ママ」
「そうね」
海里さんの一言で、リンダさんは薄っすらと、ちょっと怖い笑みを
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます